コラム

「EV2035年問題」を日本は乗り越えらるのか

2022年10月19日(水)14時20分

日本の自動車メーカーはEVシフトで大きく出遅れた Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<国内の「化石燃料エンジン産業」を守ろうとするトヨタ社長の姿勢に企業経営者としての誠実さは感じられるが......>

アメリカでは2020年の時点で、カリフォルニア州が「2035年に一切の化石燃料車両の新車販売を禁止」する法律を制定していますが、ワシントン州もこれに続いていました。今度は、この2022年9月にニューヨーク州も同じように「2035年に化石燃料車両を販売禁止」にすると決定しました。既にEUも、そして中国も2035年に禁止と宣言しています。

この2035年問題ですが、かなり厳格な定義となっています。ガソリンやディーゼルエンジンの車両だけでなく、ガソリンエンジンと電気モーターの双方を搭載して省エネを実現しているハイブリッド車(HV)も、禁止対象にしている地域が多いのです。いくらエネルギー効率が良くても、エネルギー源の100%をガソリンなど化石燃料に頼っているから「ダメ」ということです。

実は日本も「流れに乗り遅れるな」ということで、同じように2035年に「化石燃料車の販売禁止」を決定しています。ただし、日本の場合はEV(純粋な電気自動車)だけでなく、PHV(ガソリンで走るハイブリッドだが電源からの充電も可能)や、FCV(水素などの燃料電池車)、そしてHV(従来型のハイブリッド)は2035年以降も引き続き認めるという立場です。

それはともかく、世界では「EV化」という大きな波が自動車産業を根底から変えつつあるのです。アメリカでは、2021〜22年の時点で高級EV専業メーカー「テスラ」がEVの大きなシェアを持っていますが、GMもEVの新車を投入中です。一方でドイツからはメルセデス、BMW、VWの3社がEV攻勢を開始、韓国勢もこれに続いています。

岸田政権が打ち出したエネルギー多様化政策

ところが、日本勢は大きく遅れています。特にトヨタの場合は、2021年にはEVの販売台数はゼロであり、2022年になってようやく数車種を投入していますが、台数は微々たるものです。次年度へ向けては、高級ブランド「レクサス」を含めて多くの車種を投入するようですが、出遅れは顕著です。

そのトヨタの豊田章男社長は「2035年」問題に触れて、特にカリフォルニアの「全面EV化=ゼロ・エミッション」については「とても間に合わない」と発言しています。また、「HVやPHVも含めた省エネ車種の多様化」も主張しています。

この現状における「遅れ」、そして「2035年に間に合わない」という問題については、従来は「日本における電源の脱炭素化」が困難という事情が大きく反映していました。つまり、どんなにEVを売っても、走らせるために必要な電源がLPGや石炭ではどうしようもないし、そもそもEVを製造するために使うエネルギーが化石燃料では、世界から全く相手にされないからです。

ただ、この問題については、ここへ来て岸田政権が、原発の再稼働と新設を含めたエネルギーの多様化政策を打ち出し、以前とは違って世論もこれを認めています。ですから、状況としては好転していると言えます。世界的に著名な環境活動家であるグレタ・トゥーンベリ氏も「石炭より原子力」という発言をしていますが、これは西側世界に中国を加えた世界の趨勢でもあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story