コラム

複雑に絡み合うトランプ別荘強制捜査の政治的意味

2022年08月17日(水)14時10分

3つ目は、ガーランド氏への妨害に対する報復という意味合いです。ガーランド司法長官は、オバマ政権の末期に、一旦は連邦最高裁判事候補として指名されています。ですが、共和党は「選挙が近いので民意を得てから承認すべき」だとして、承認プロセスを拒否、結果的にトランプが勝利したことでガーランド氏の就任は見送られました。

しかしながら、トランプ政権と共和党は、この「選挙直前には指名、承認しない」という慣行を自分たちの場合は破ることになります。結果として、最高裁を保守派で支配して多くの判例変更をやっています。今回の一件は、その全体に対するガーランド氏の復讐だという説明が出回っています。ただ、ガーランド長官は骨の髄までの法曹の人であり、私怨が主たる動機ということはないと想像されます。

4つ目は、別件捜査です。裁判所の許可を得た捜査令状を駆使して、FBIは「マーラーゴ」の全体を徹底的に調べた可能性があります。一部の報道では、金庫は焼き切って中を調べたという話もあるぐらいです。ですから、2021年1月6日の暴動へのトランプ本人の関与、ロシアへの内通、サウジアラビアとの癒着、あるいはホテル・カジノ運営会社であるトランプ・オーガニゼーションの脱税問題など、様々な別件について捜査するのが目的だったということは考えられると思います。

狙いは共和党内のアンチ・トランプ派か?

5つ目ですが、純粋に政治的な意図としては、民主党の党勢を後押しするという単純なものではないと思われます。むしろ、共和党内のアンチ・トランプのグループにトランプの姿勢について敬遠させることで、政局全体へのトランプの影響力を削ぐことを、司法省は計算していると見るべきでしょう。

この点で重要なのがタイミングです。2016年の大統領選では、投票日の直前に当時のFBIのコミー長官が「ヒラリーの第二次メール問題」という曖昧な疑惑を公表して、選挙結果を歪めたとして大きな非難を浴びました。コミー氏は、問題を伏せて選挙が進むよりは、選挙前に公表するのが正義だと思ったとしていますが、やはりFBIと司法省としてはこうした疑惑は避けたいと思ったフシがあります。ですから、中間選挙までまだ3カ月あるこの時点で捜査に踏み切ったという評価があります。

いずれにしても、今後の捜査がどのような展開を見せるか注目したいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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