コラム

日本の首相の言葉はどうして心に響かないのか?

2021年01月26日(火)15時10分

コロナ対応への批判などで菅政権の支持率は下がっているが…… Rodrigo Reyes Marin/Pool/REUTERS

<「密室トーク」を重ねて首相に上り詰めた途端、国民との直接対話のコミュニケーションを求められる>

菅義偉首相の支持率が下がっていますが、コロナ禍という危機への対処に難渋していることは別として、よくあるパターンという印象があります。つまり、日本の政治家というのは、首相になるまでは「パブリックスピーチ力」を問われないのに、総理になった途端に国民との直接対話を求められる、そこで多くの首相が見事に失敗する、そんなパターンです。

政治家はいつも演説をしているので、初対面の人とのコミュニケーションのプロというイメージがありますが、日本の場合は違うと思います。新人候補から派閥や党の要職を経て大臣を経験して当選を重ねる間、政治家が関わるのはもっぱら「密室型のコミュニケーション」です。

「例の件ですが」
「ああ、あれね」
「あんな線でどうでしょうか?」
「うーむ、ただ例の筋がどう言うかだね」
「では、基本はあの線で、問題の点だけは先送りで?」
「まあ、そんな構えかな」

日本の政治家はそのような「あうんの呼吸」の密室言語のプロです。政治家が会食をやめられないのは、贅沢が好きだからではなく、こうした密室型の会話が仕事だと信じているからです。

首相になった途端に始まる国民との直接対話

この種の極端な省略話法の場合は、表情や声色など「非言語の要素」も重要で、だからこそ対面でないと伝わらないし、明確な合意もできません。例えば、ZoomやTeamsを使ったオンライン会議で「例の件は?」「まああの線だな」とブツブツ喋っても何も伝わらないし、第一バカみたいです。

菅首相の場合も、そうした密室トークのプロだからこそ総理・総裁にまで上り詰めたわけですが、上り詰めた坂の上に立った瞬間には、全く状況が一変したわけです。その瞬間から全国民の注目を浴び、全国民に向けて語りかけないとならないからです。

ここには壮絶な落差があります。つまり問題は菅首相だけではないということです。では、何が問題で、どうしたら変えられるのでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏新党結成「ばかげている」、トランプ氏が一蹴

ワールド

米、複数の通商合意に近づく 近日発表へ=ベセント財

ワールド

米テキサス州洪水の死者69人に、子ども21人犠牲 

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story