コラム

最後のテレビ討論はトランプの「やや勝ち」 バイデン優位の大勢は変わらず選挙戦は最終盤へ

2020年10月23日(金)16時30分

選挙戦最終盤への影響は限定的と見られる(サンディエゴの飲食店のモニターに映し出された討論会の様子) Mike Blake-REUTERS

<前回から一転、「お行儀が良かった」トランプに対してバイデンは少々失点した感が......>

現地時間の10月22日木曜夜、テネシー州ナッシュビルで大統領選テレビ討論が行われました。この討論会ですが、その第1回の討論が「史上最悪」と言われたことを受けて、今回も混乱するのではないかと危ぶまれていました。そこで、今回は「それぞれの発言の最初の2分間」は「相手側のマイクをミュートにする」という措置が取られることになりました。この措置が討論にどういった影響を与えるのかも注目されていました。

結果的には、予想外の結果になりました。とにかく「カオス」と言われた第1回と比較すると、今回は「一応は討論になっていた」からです。マイクを「ミュート」にしたことが効果的なだけでなく、両候補、特にトランプ側がちゃんと取り決めを守ったことが大きいと思います。司会のクリスティン・ウォーカー記者(NBC)のさばき方も見事でした。

これは、多くの政治アナリストにとってはサプライズだったようです。世論調査では大きく劣勢だと言われているトランプ大統領は、下品なまでに独自色を出して討論を引っ掻き回すとか、特にバイデン候補の次男、ハンター・バイデン氏に関する疑惑などを展開して「思い切り話題性を演出する」作戦に出ると思われていたからです。

トランプ大統領は、別に気力が衰えていたわけではなく、途中からは「移民の子供を入れる非人道的な檻はオバマ政権が作った」などという、ある種のフェイクニュースを何度も展開して強調していました。また、自分はコロナに免疫があるとか、(第3波が懸念される中でも)経済をどんどん再開しろなどと、いつものトランプ節を繰り出していました。

ですが、おそらくはブレーンの進言に従って、模擬討論もしてきたようで、とにかく予想に反してトランプにしては「自制気味」でした。一方で、バイデン候補の方も善戦はしていましたが、少し失点した感じがありました。

相変わらずのトランプ放言も

以下、直後の感想を箇条書き的に記しておきます。

(1)トランプは、発言妨害はほとんどしなかったし、暴言の一歩手前で止めたことが多かったことで、「期待値が低い」こともあってポイントを稼いだ格好。

(2)一方のバイデンは、9月29日の「カオス討論」でも、打ち負けなかったし、10月15日にABCが放映した「対話集会」では、深みのあるトークが民主党支持者に好評だったため、「期待値が上がって」いた。そんな中では、今回はやや失点が目立った。

(3)トランプの放言の中には、「俺は北朝鮮と仲良しだから爆弾飛んでこない」とか「自分にはコロナの一生免疫があるかも」「息子も陽性になったがすぐ治った。子どもはかからないから学校はすぐ開けろ」など、いつもながらの「一線を越えた」内容もあった。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story