コラム

バイデン陣営はこれで「ターボ全開」? 副大統領候補ハリス指名の意味

2020年08月12日(水)12時00分

ハリスには大統領候補のバイデンがかすむほどの存在感がある Kevin Lamarque-REUTERS

<民主党は、トランプから何としても政権を奪取して米社会を元に戻したいという強い意思表示を見せた>

バイデン氏の副大統領候補は、当初は7月末に発表と思われていたのが、ズルズルと先延ばしになっていました。8月1日らしいとか、いや8月第1週とか、そうではないなら10月の月曜日だ、あるいは17日スタートの民主党大会の直前まで引っ張るなど、諸説が乱れ飛んでいました。

結局、11日(火)の東部時間午後4時過ぎになって、バイデン氏自身のツイートで「副大統領候補はカマラ・ハリス氏」という発表がされました。既にバイデン氏のホームページは「バイデン・ハリス2020」というロゴに変わっています。両候補が顔を揃えての登場は、現地時間12日に行われる選挙資金キャンペーンになる模様です。

今回の人選ですが、少なくとも以下の8つの意味合いがあると思います。

1つ目は、下手をすればバイデン氏が「かすむ」ほどの存在感を持ったハリス氏をあえて選択したことの重さです。これは、小牧・長久手の戦いの後に、秀吉が頭を下げて家康と和解し、家康がそれを受け入れたドラマに匹敵すると思います。これによって秀吉存命中の政権が安定したわけですが、同じように民主党としてどうしても政権を取って社会を元に戻したいという強い意思表示になるのは間違いありません。

具体的には、「郊外の女性票」が一気に獲得できるとか、黒人票は大丈夫だとか、民主党支持者のリアクションとしては「これで勝った」的な表情が見て取れます。CNNのデビッド・チャリアン政治部長の表現によれば、これでバイデン陣営は「ターボチャージ」状態だそうです。

左派と中道の党内調整に光明が

2つ目は、仮にバイデン氏が選挙戦を通じて健康であり、仮に当選した後も十分に健康であったとしても、歴史上まれに見るような「限りなく大統領に近い副大統領」としてハリス氏を重用する可能性です。一部にはそうなると、政策運営が行き詰まった場合には2024年の「天下取り」がハリス氏として難しくなるという指摘もありますが、指名を受けた以上、この人はやるでしょう。

3つ目は、7月に成立していた左派のサンダース議員と中道のバイデン氏の政策合意が、これで強固になると思います。この政策合意は「足して2で割った」危うさを持っている一方で、「ギリギリの線」まで詰められているのも事実です。ですから、実現は可能かもしれないが、相当に調整が必要な内容になっています。左派と中道の政策の間で自身が苦しんだハリス氏であれば、党内調整や議会との調整を成功させる可能性が出てくると思います。国政経験のない人材や、外交の専門家では、多分無理でしょう。

4つ目は、選挙戦を通じて、対立候補のトランプ陣営に対する攻撃力が倍増したということが言えると思います。ハリス氏という人物は、自伝の冒頭に「トランプ当選の瞬間」の悔しさを持ってくるなど、とにかく「トランプ的なるもの」との正面からの対決をしてきた人です。検事出身だけあって、落選後のトランプにどうしても実刑をという執念すら感じます。その種の報復は一般的に国の品格を下げるとも思いますが、ハリス氏は許さないでしょうし、そうなった場合には、それはそれで歴史的な宿命としか言えません。

<関連記事:トランプ姪の暴露本は予想外の面白さ──裸の王様を担ぎ上げ、甘い汁を吸う人たちの罪

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

サハリン2のLNG調達は代替可能、JERAなどの幹

ビジネス

中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予想も下

ビジネス

日産と英モノリス、新車開発加速へ提携延長 AI活用

ワールド

ハマス、新たに人質3人の遺体引き渡す 不安定なガザ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story