コラム

安倍首相の苦しい言い逃れ「募っているが、募集はしていない」から見えること

2020年01月30日(木)17時00分

安倍首相の奇妙な答弁は「言語明瞭・意味不明瞭」と言われた竹下節を思い出させる Kim Kyung Hoon-REUTERS

<首相答弁の本質を突いて追及ができない野党の体たらくと、あくまで言い逃れに終始する政権末期の雰囲気と>

安倍首相が国会答弁で、「桜を見る会」の参加者について、本来は社会的な功労のあった人を対象とすべきところを、自分の選挙区である山口県の個人事務所が「事前に集めていた」ことについて、興味深い問答がありました。

安倍首相はこの中で「(桜を見る会への参加を)募っていた」が「募集はしていない」と述べています。何とも奇妙な答弁です。このニュースを聞いて、少々古い話で恐縮ですが、私は1980年代末の竹下登首相を思い出しました。

竹下首相の答弁は、当時「言語明瞭・意味不明瞭」というこれまた不思議な評価が付けられました。その典型的な例をあげておきましょう。政治改革がホットな議論になっていたときの答弁です。

「大、中、小、いずれの選挙区制度にも確かに特色がございます。英国の選挙浄化法が、ある意味では小選挙区制のもたらした腐敗からくる果実であるという評価もございます。また、参議院の現行制度に批判のあることは、十分お互いが承知しておるところであります。選挙に際しての日常活動の重要性、さりとて御指摘のように特定支援団体の代弁者に堕することの弊害、これら種々の御指摘は、いずれも傾聴すべきものであると思います。それが同時に、しかし、いずれも直ちに結論に結びつかないというところに、私は問題の奥行きの深さというものをいつも感じております。」(衆院本会議・1989年2月14日)

一種の居直り

思わず笑ってしまいます。確かに言葉は明瞭ですが、首相として政治改革を進めるのか進めないのかという立場の表明としては、極めて不明瞭です。「問題の奥行きの深さをいつも感じている」というのは、その「奥行きの深さ」のために実行は難しい、あるいは自分の内閣としては積極的にはできないし、しませんよ、という意味です。ですが、妙に丁寧な言い回しのためにごまかされてしまう、それが竹下登という人のスタイルであり、また国民の支持を失った原因でもありました。

この竹下節と比較すると、安倍総理の「募っているが、募集はしていない」というのは表現のアプローチとして、少し違いがあります。竹下節とは違って、丁寧な言い回しではなく、「募った」のは事実だが「募集ではない」という「不意打ち」のようなレトリックでその場を逃れようという、一種の居直りのようなものがあるからです。

それだけではありません。この「募っているが、募集はしていない」という発言には罠が仕掛けられているのです。それは、追及する側が「妙なことを言うな、募ると募集は同じじゃないか、漢字も同じじゃないか」と言って批判を始める、あるいは批判のあまり審議が紛糾するというのは「計算済み」ということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GSユアサ、通期純利益と年間配当予想を上方修正 市

ビジネス

午後3時のドルは156円前半へ小幅高、衆院選後見越

ビジネス

アングル:金反騰でも株式市場にくすぶる警戒、25日

ビジネス

三菱重の通期純利益、一転過去最高に ガスタービン需
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 4
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 9
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 10
    ICE射殺事件で見えたトランプ政権の「ほころび」――ア…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 8
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 9
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 10
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story