コラム

大統領に仕えるのか、歴史に仕えるのか、2つの司法判断

2019年02月26日(火)18時00分

ですから、特別検察官の捜査に対して指揮をする権限を持っており、そのために、トランプ政権の閣僚として「報告書の一部非公表化」をするのではないかという噂が流れています。そのために、トランプ大統領はバー氏を司法長官に指名したという「説」もあるからです。

実は、このバー氏、1991年から93年までジョージ・H・W・ブッシュ政権の司法長官を務めていました。ですが、歴史的評価は高くありません。というのは、その前のレーガン政権当時に発生した「イラン・コントラ事件」という政権周囲で起きたスキャンダル事件に関して、主要な人物の「恩赦」をめぐって司法長官として奔走したとされているからです。

つまり、レーガン、ブッシュ(父)系列の軍人や諜報、外交関係者の中で、スキャンダルに関わった人が免訴されるように便宜を図ったというのです。これは、当時大きな批判を浴びており、おそらくはこの経緯のために、バー氏は93年から現在まで26年にわたって公職から「離されていた」という説もあるのです。

一部には、トランプ大統領は「バー氏をスキャンダルのもみ消し屋」として期待しているという説もあり、それが今回の司法長官指名につながったという解説もあります。

ですが、別の見方も可能です。68歳という年齢になったバー氏は、法律家として自分の名前がどのように歴史に残るかという点に関心があるかもしれません。仮にそうであれば、今回、トランプ政権の奥に入り込みつつ、「ムラー報告書」の公表に尽力すれば、93年の汚名を晴らすことが可能になります。であるならば、バー氏は「全文公表に踏み切る」かもしれません。

どちらにしても、大統領の周辺は非常に騒がしくなってきています。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ブラジル産鶏肉の禁輸解除検討 鳥インフル終息

ワールド

EUが重要鉱物資源の備蓄計画、地政学要因による供給

ビジネス

英福祉支出削減の撤回、財政課題の深刻さを示す=S&

ビジネス

LGエナジー、第2四半期は152%営業増益予想 関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story