コラム

トランプ政権「もう一つの事実」に新バージョン登場

2018年08月21日(火)17時40分

ところが、全く同じ日曜日朝のNBC「ミート・ザ・プレス」で、現在も司会をしているチャック・トッドは、1年半後の2018年8月19日に、トランプの側近から「新バージョン」を引き出すことに成功しました。

それは「真実は真実にあらず("Truth isn't truth.")」というものです。今回この発言をしたのは、コンウェイではなく、もっと大物である元NY市長で大統領候補にもなり、現在はトランプの顧問弁護士を務めているルドルフ・ジュリアーニです。

どういう話の流れかというと、現在「ロシア疑惑」の捜査が進む中で、ロバート・ムラー特別検察官による大統領本人への直接の事情聴取が行われるべきかどうかというのが議論になっているのですが、弁護人としてジュリアーニはこれに反対しているのです。

ジュリアーニは、「大統領は証言を求められれば真実を話せばいいのであって、何も恐れる必要はない、あなた(司会者のトッド)はそう言うが、それは浅薄な考えです。真実なんてものは、誰かのバージョンの真実であって、本当の真実ではないんですよ」という実に不思議なコメントを発したのでした。

要するに、ジュリアーニとしては、ムラー特別検察官の誘導尋問に乗って、大統領が偽証という罠に陥れられる危険がある、そう言いたいようでした。つまり大統領の側で真実と思っていることが、特別検察官からすると虚偽になる、そのようなトリックに「ハメられない」ために、大統領への直接の事情聴取は弁護人として拒否したいということです。

しかし「真実は真実にあらず」というのは、何とも奇怪な発言です。司会のトッドは「いや、真実はあくまで真実でしょう」と切り返したのですが、ジュリアーニは「いや、真実は真実にあらず、です」と突っぱねて、不思議な禅問答のような応酬になっていました。

辣腕検事から転じたNY市長として大都市NYの治安を劇的に回復させ、2001年にはテロ被災における危機管理が全世界から賞賛されたジュリアーニが、派手なジェスチャーを交えて「真実は真実にあらず」というのは何とも不思議な光景です。

もしかしたらジュリアーニは、歴史の洗礼という長期的視点から「トランプへの刺客」として活動しているのかもしれません。反対に、ジュディス前夫人との離婚などで金銭的に窮したので因果な弁護士稼業に戻っているのかもしれません。あるいは、かつて自分を予備選で無残な敗北に追いやった「共和党の草の根保守」を喜ばせることで密かな復讐をしているのかもしれません。

不世出の弁論家であるルドルフ・ジュリアーニの本心を読み取るのは全く不可能ですが、コンウェイ発言を上書きするような今回の発言が、アメリカ政界における「言葉への信頼」をさらに崩しているというのは残念でなりません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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