コラム

移民親子「引き離し」を大統領令で撤回、迷走するトランプ政権

2018年06月21日(木)13時45分

合計で2000人を超える子供たちが収容施設に入っている(写真はテキサス州の収容キャンプ) Mike Blake-REUTERS

<足下の共和党内からも強く批判されていた不法移民の親子引き離し措置を、トランプが大統領令で撤回。しかし対応の詳細は決まっておらず人道危機は続いている>

メキシコとの国境地帯で「逮捕した不法移民の親」を「子供」から隔離する「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ、つまり一切の例外を認めないこと)」措置について、アメリカでは連日テレビのトップニュースとなっています。

今週19日の時点では、隔離された子供だけを収容した施設で「両親を恋しがる泣き声であふれている」という音声(移民弁護士が録音したもの)が公開されたり、あるいは「10歳のダウン症の子どもが親から引き離された」という事例が発見されたりするなど、事態は一刻の猶予もないところまで来ていました。

そんな中で、所轄官庁である国土安全保障省のニールセン長官は、こともあろうに「メキシコ料理店」で食事をしているところを他の客に見つかって、「恥知らず」という罵声を浴びせられています。また、この「親子隔離」という政策については、昨年の時点で大統領の側近であるスティーブン・ミラー上級顧問が立案、ジョン・ケリー首席補佐官も支持をしていたことが判明。両名に対する社会的評価も地に堕ちた印象です。

また、国境州の多くでは「不法移民を逮捕すると、子供との隔離という深刻な人道危機を招く」として、州の判断で国境パトロールを中止することを決めました。さらに、中南米に多くの路線を運航しているアメリカン航空は、「隔離された子供の強制送還措置には協力できない」という声明を出しています。

日に日に高まる批判に対して、トランプ大統領とその側近は「この危機は民主党が作り出したものだ」とか「自分たちも憎むべき事態だと思う」などと言って居直っていました。特にケリーアン・コンウェイ顧問は、出演したCNNの番組で「張本人は議会であり、特に民主党。大統領が悪いというのはフェイクニュース」だと突っ張って、キャスターのクリス・クオモと罵倒合戦になっていました。

大統領サイドの説明はこうです。「民主党は国境の壁建設予算に反対しており、これでは移民政策が決められない」「従来は移民審査の期間中は親子で一緒にいられたが、20日を超えて小児を強制執行施設に入れるのは違憲だというルールを民主党が作ったから現在の危機に至った」と言うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

気候変動災害時に債務支払い猶予、債権国などが取り組

ビジネス

フェラーリ、ガソリンエンジン搭載の新型クーペ「アマ

ワールド

ブラジル政府、議会の金融取引税引き上げ却下を不服と

ワールド

豪小売売上高、5月は前月比0.2%増と低調 追加利
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story