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グローバル時代の格差拡大とダボス会議が抱える矛盾
また多くの途上国型の独裁者は、一部の財閥と結託して富と権力を独占する一方で、世界からの「自由の風」が国内に入ってくるのを警戒していました。さらに、社会主義国家が官僚制独裁政治に陥って庶民からの信認を失った時代には、自由を求める個人は国境の手前で射殺されていました。その反動として、自由社会のグローバルな影響力が拡大してベルリンの壁は倒されたのです。
ですが、21世紀の現代というのは、金融・情報通信・新技術という高度に知的な職種だけが、成功者としてグローバルな世界で繁栄する時代です。その中で、その成功者のサークルに入れない人々には、「サーカスとしてのナショナリズム」と「規制などで守られた雇用というパン」が「国家というローカル」によって与えられるという「20世紀とは正反対の状況」が発生しているわけです。
つまり、国境を越えていける人間だけが富める時代であり、その結果として富める者の側は、「多様性」であるとか「寛容性」という価値観を掲げながら、「国境」を「より低く」したり「国家」というものを「より軽く」したりしたいという志向性を持つことになります。反対に、ローカルに縛られ、しがみついている人間には排外や、孤立、多様性への嫌悪といったカルチャーが色濃くなって行くという負のスパイラルが発生するわけです。
アメリカの場合、オバマやヒラリーは、「こうした時代の流れには逆らえない」のであって、だからこそ「万人に機会を与える」ための医療保険や大学無償化を進め、移民を歓迎する政治を行ったわけです。格差は問題かもしれないが、機会の均等ということを徹底して進めれば、結果については自己責任として構わないという考え方と言っていいでしょう。2016年の大統領選の結果は、この発想法に対しての「ノー」でした。
問題は、このような格差が拡大して行けば、成功者のサークルではよりコスモポリタンなカルチャーが濃厚になる一方で、ローカルにしがみつく層はより「閉じこもる」方向になって行くということです。その上でトランプのような「右派のポピュリズム」という政治手法を使えば、後者の持っている深い怨恨の感情を政治的求心力にする手法は、今後も出てくる可能性があると思います。
今回のダボス会議というのが、どこまでこうした危機感を持って運営されているのかどうかは分かりません。少なくとも、タイトルだけは「分断された世界の中で共通の未来を作り出す」というのですから、多少の危機意識はあるのでしょう。ですが、少なくとも、このように「グローバル」と「ローカル」の間に経済的な格差だけでなく、世界観に関わる断裂が生じているというのは大変に危機的な状況だと思います。そのような時代に、世界経済フォーラムの大きな会議を、スイスの豪華なスキーリゾートで行うという感覚は、私には違和感があります。
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