コラム

トランプのエルサレム首都認定は国内向け政策

2017年12月19日(火)15時30分

エルサレム首都認定の撤回を求める安保理決議案を、アメリカは拒否権を行使して否決させた Brendan Mcdermid-REUTERS

<国際社会から見れば暴挙なのに国内ではトランプ支持者の求心力を高めているという危うさ>

アメリカのトランプ大統領が「エルサレムをイスラエルの首都と認定する」と宣言したことに対して、国連安保理は12月18日(アメリカ東部時間)、「アメリカに撤回を求める」決議案を採決しました。結果としては、否決されてこの決議案は廃案になりました。アメリカ以外の14カ国がすべて賛成したのですが、アメリカは常任理事国として拒否権を発動したのです。

この決議案に賛成した14カ国ですが、常任理事国の中国とロシアに加えて、アメリカの西側同盟国であるイギリス、フランスも入っていますし、非常任理事国の日本も賛成に回っています。

つまり国連安保理という場で、国際社会の中でアメリカは孤立した格好になっています。国連で「撤回要求決議は拒否権行使で拒否できたが、誰も味方してくれなかった」という状況は、アメリカ外交にとって失点になったように見えます。ですが、実はアメリカの共和党が歴史的に持っている考え方は、まさにこの「孤立」という方針です。

共和党は、第一次世界大戦にも、第二次世界大戦にも参戦に反対しましたし、第一次世界大戦後に国際社会が恒久平和を目指して組織した「国際連盟」へのアメリカの加入を潰しています。2000年代のブッシュ政権の時代にも、当時のジョン・ボルトン国連大使などは、平気で国連軽視を口にしていたぐらいです。

ですから、今回の「孤立」というのは、トランプ支持派から見れば「偽善的な国連の中でアメリカが堂々と拒否権を使ってカッコよかった」という印象はあったかもしれませんが、「国際社会で孤立してしまった、大変だ」という感覚はないのです。

では、トランプ政権は徹底的にイスラエルの味方、ユダヤ系の味方なのかというと、そこのところは少し怪しいのです。この点については、2016年の選挙戦を通じて「トランプはアンチユダヤではないのか?」という追及を受けてきたわけです。

これに対して大統領は、最愛の娘であるイヴァンカがユダヤ系のクシュナーと結婚するにあたってユダヤ教に改宗していることを挙げて、自分はユダヤ系に対する理解があるという主張を再三にわたって繰り返していたのでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ウェイトウォッチャーズ、減量薬配送でアマゾンと提

ビジネス

ヘッジファンド、エネルギー株や銀行株を先週大規模売

ビジネス

ドイツ税収、9月は前年比2.6%増 短期的な押し上

ワールド

英警視庁、「犯罪に当たらぬ憎悪」捜査せず 文化論争
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story