コラム

民営化30年の明暗、JR北海道とJR四国の苦境

2017年03月30日(木)17時40分

北海道は札幌への一極集中という構造的な問題を抱えている Issei Kato-REUTERS

<国鉄の分割民営化から30年を経た今、JR北海道とJR四国は構造的な問題から経営難に陥っている。高速道路の例を手本に、インフラと運営を分割するスキームを採用するという手もある>

1987年4月1日に旧国鉄が分割民営化されてから、ちょうど30年を迎えました。この間、全国の新幹線網整備や、大都市の通勤輸送体制は大きく進歩しました。また、経営面でもいち早く株式上場を果たしたJR東海、東日本、西日本に続いて、JR九州も上場して経営基盤を安定させています。

その一方で、JR北海道とJR四国は苦境に陥り、明暗がハッキリ分かれています。JR北海道に関しては、2011年5月の石勝線ディーゼル特急脱線炎上事故を契機に多くの不祥事が明らかとなり、社長経験者2人が自殺するという異常な事態になっています。さらに2016年には観測史上初という台風被害によって、全道の設備がダメージを受けました。

JR北海道は昨年11月に「維持困難路線」を公表するなど、自主再建は不可能という宣言をするに至っています。

一方のJR四国は、経営上の不祥事などが報じられているわけではないですし、また台風等の自然災害のダメージを受けたわけでもありません。ですが、経営の厳しさという点では、北海道と同様の状況にあります。一部の報道によればJR四国もこの4月以降に有識者懇談会を立ち上げて、「鉄道ネットワークを維持する方策」の検討が始まると伝えられています。

【参考記事】日本でコストコが成功し、カルフールが失敗した理由

北海道と四国の鉄道の衰退は、「過疎高齢化のせい」だとか「デフレ経済など日本経済の低迷のため」という解説があります。確かに厳然たる事実で否定のしようはないですが、それだけではありません。

これに加えて、人為的な問題、つまり「国土計画の失敗」とでも言うべき問題があるように思います。

まず北海道には、札幌一極集中という問題があります。何が起きているかというと、まず若者が進学や雇用の関係で全道から札幌に集まってきています。これに加えて、引退した高齢者が医療体制の完備された札幌圏に集まってくる現象も顕著です。結果として、全道540万人の人口のうち、64%が札幌市に集中するという極端な偏りが生まれ、人の流れも札幌圏で完結してしまっています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ニューサム加州知事の逮捕支持を示唆 移

ワールド

カナダ首相、国防費増額を誓約 NATO目標の年度内

ワールド

メキシコ大統領、ロスのデモ暴徒化を非難 米との二国

ワールド

米中、ロンドンで2回目閣僚級協議を開始 レアアース
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、健康に問題ないのか?
  • 4
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 5
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 6
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 7
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 8
    「白鵬は、もう相撲に関わらないほうがいい」...モン…
  • 9
    コメ価格高騰で放映される連続ドラマ『進次郎の備蓄…
  • 10
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 6
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 7
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 8
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 9
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story