コラム

北陸新幹線、敦賀以西の延伸に「正解」はあるのか?

2015年06月18日(木)13時04分

 この「若狭ルート」ですが、こちらにも大きな問題があります。それは、京都を経由しないということです。これから日本がますます観光立国を志向する中で、京都と金沢が新幹線でつながっていないというのは問題です。また歴史的に京都と北陸の結びつきは経済面でも文化の面でも非常に重要であり、京都を通らない北陸新幹線というのは話になりません。さらに、名古屋との連絡も良くありません。

 もう一つの案は「湖西ルート」です。琵琶湖の西側を現在のJR湖西線に沿って敦賀から京都までという構想です。大阪への速達性は「若狭ルート」とあまり変わらないし、工費は「若狭ルート」より抑制可能という案です。新大阪に直通させるにあたって、東海道新幹線の輸送力を増強するには、京都から新大阪まで「JR西日本による複々線化」を行えば良く、その際には副次的な効果として、例えば京都始発の鹿児島中央行きなども可能になるでしょう。

 ですが、この「湖西ルート」にも問題があります。というのは、琵琶湖の西側にある比良山地を越えて「比良おろし」という強風が吹くからです。この「比良おろし」ですが、現在でも湖西線はそのために年間で20回前後運休が発生しています。1997年には停車中の貨物列車が突風で横転したこともあり、要するに鉄道交通上の「難所」なのです。ですから、よほど巨大な防風柵を設けるとか地下化するとかしないと、このルートに新幹線を通すというのは難しいと思われます。

 そんなわけで、この3案はそれぞれに難点があり、3600億円(米原ルート)から9500億円(若狭ルート)という予算を投じるだけの効果があるかは、大変に疑問です。

 実は、この3案以外にも、ハコモノ的な発想ではなく技術力で問題をカバーするという方向性があります。それはFGT(フリーゲージ・トレイン、軌間可変電車)というもので、車軸に特殊な機構を設けて、狭軌の在来線と、標準軌の新幹線の間をスムーズに相互乗り入れができる電車です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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