コラム

中間選挙「共和党勝利」で、アメリカは右傾化するのか

2014年11月04日(火)12時04分

 アメリカで4日に実施される中間選挙で、仮に上下両院ともに共和党が過半数を占めたと仮定した場合、アメリカにはどんな変化が起こると予想できるのでしょうか?

 法的に言えば、オバマは大統領として2017年1月まで任期を残しているわけですから、その間は議会がどんな法案を通しても「拒否権」を使って阻止することはできます。また大統領令を出して簡単な制度改正を行うことも可能です。

 ですが、下院の多数を共和党に握られた改選前の「ねじれ議会」でも、オバマは政局運営に苦労していたわけですから、仮に上院も取られてしまうとなると、もっと自分の政策を通していくのは難しくなります。上下両院を共和党が支配すれば、共和党の影響力が増すことは間違いありません。

 その場合、アメリカはどんな方向へ向かうのでしょうか? 一般的に民主党はリベラルで、共和党は保守だというイメージが確立しています。では、アメリカは右傾化するのでしょうか? そう簡単には言えないと思います。

 例えば、移民政策の問題があります。長い間、共和党は「白人保守派」の意向を反映して、「不法移民の合法化」には慎重でした。今回の中間選挙で共和党が勝利すると、こうした移民法改革は見送られるのでしょうか?

 必ずしもそうとは言えません。共和党はこの問題で「オバマが功績を挙げてヒスパニック系に支持される」ことは避けたいと思っています。しかしヒスパニック系の票が欲しい、またそのためには移民法改革を進めなければならない点では、民主党とまったく同じなのです。

 具体的に言えば、夫人がメキシコ出身のジェブ・ブッシュ、自身がキューバ系移民のマルコ・ルビオなど、共和党の「有力な大統領候補」にはヒスパニック系との縁の深い人物がおり、彼らはヒスパニック系の声を代弁してきています。共和党が勝利した場合、移民法改革が「オバマの任期中は難しくなる」ことはあるかもしれませんが、その後も共和党が「保守だから」移民法改革が進まないということにはなりません。

 リベラルなオバマがアメリカを「弱体化」させた――。だから保守派の共和党が勝利したら「強いアメリカ」あるいは「世界の警察官アメリカ」が復活するだろう、というのはどうでしょうか?

 これも疑わしいと思います。共和党内では、クラシックな軍事タカ派の退潮が進行しています。均衡財政のためなら軍事費も聖域とせずというのが、ティーパーティー系、あるいはリバタリアン系の新世代には多く、彼らは軍事タカ派に対して猛然と反発しているという党内構図があります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、ロシア領内攻撃巡り米と協議 「慎重なが

ワールド

インド財閥アダニG、米エネ安保に100億ドル投資へ

ワールド

プーチン氏とサウジ皇太子が電話会談、OPECプラス

ビジネス

米家計、所得向上でコロナ禍前より多くの借金可能に=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:またトラ
特集:またトラ
2024年11月19日号(11/12発売)

なぜドナルド・トランプは圧勝で再選したのか。世界と経済と戦争をどう変えるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 2
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 3
    NewJeansのミン・ヒジン激怒 「似ている」グループは企画案から瓜二つだった
  • 4
    本当に「怠慢」のせい? ヤンキース・コールがベース…
  • 5
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    中国の言う「台湾は中国」は本当か......世界が中国…
  • 8
    トランプ再選を祝うロシアの国営テレビがなぜ?笑い…
  • 9
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、1000キロ離れたロシア拠点に…
  • 1
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 2
    「歌声が聞こえない」...ライブを台無しにする絶叫ファンはK-POPの「掛け声」に学べ
  • 3
    ウクライナ軍ドローン、1000キロ離れたロシア拠点に突っ込む瞬間映像...カスピ海で初の攻撃
  • 4
    「遮熱・断熱効果が10年持続」 窓ガラス用「次世代…
  • 5
    「トイレにヘビ!」家の便器から現れた侵入者、その…
  • 6
    本当に「怠慢」のせい? ヤンキース・コールがベース…
  • 7
    後ろの女性がやたらと近い...投票の列に並ぶ男性を困…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「空母化」、米…
  • 10
    「ダンスする銀河」「宙に浮かぶ魔女の横顔」NASAが…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 3
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 4
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 5
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story