コラム

共和党予備選「院内総務敗北」で混迷深まる米政局

2014年06月12日(木)13時18分

 共和党のエリック・カンター議員(下院、バージニア7区選出)といえば、2001年の初当選以来、当選7回を重ねる中で、下院共和党のリーダーとして順調に上り詰め、現在は「多数党院内総務」という「下院議長」に次ぐナンバー2のポジションにいます。

 そのカンター議員は、数々の難しい与野党交渉におけるキー・パーソンとして「ねじれ議会」におけるホワイトハウスとの合意形成に大きな役割を果たしてきました。現在のベイナー下院議長は、やがて近い将来にはカンター議員に下院議長職を禅譲するという見方もされていたのです。

 ですが、そのカンター議員の政治的パワーは一瞬のうちに消えてしまいました。10日(火)に行われたバージニア7区の予備選で、全く無名の「ティーパーティー系」のデビット・ブラット候補に、得票率55%対45%で完敗を喫してしまったのです。この結果によって、カンター氏は今回の中間選挙への出馬は不可能となりました。

 勝ったデビット・ブラット候補というのは、大学の経済学の教師ですが「全く無名」であり、「選挙資金も零細」という中での番狂わせでした。

 現職の「下院多数党院内総務」が予備選で負けるというのは、アメリカの憲政史上で言うと前代未聞というのですから大変です。任期は来年まであるカンター氏ですが、この事態を受けて「院内総務辞任」を表明。来月7月の末で、この職から去ることになりました。

 アメリカ全国で、この問題の衝撃はまだ収まっておらず、様々な政治評論家やブロガーが「ここぞ」とばかりに色々な見解を書きまくり、喋りまくっています。そんな中で、現時点で私なりに整理をしてみたのが、以下のような理解です。

(1)異常な予備選でした。とにかく投票率が低かったのです。55%対45%というと大差に見えますが、投票率は10%台でした。人口70万の選挙区で、投票総数は6万5000。カンター候補は前回の総選挙では22万票取っているのですが、今回の予備選では2万9000票に過ぎなかったのです。ちなみに、バージニアは完全な「オープン・プライマリー」で党員登録はなく、誰でも双方の政党の予備選に投票できるという条件下での結果です。その結果がこの異常な低投票率です。

(2)では、どうして中道層やカンター支持票が投票所に来なかったのでしょう。それは、カンター候補の選挙戦術の失敗というテクニカルな問題があったようです。「ウチの選挙区はどうせカンターで決まりだから、本選では彼に入れるけど、忙しいから予備選は行かなくてもいいや」的な行動を多くの有権者が取ったことが指摘されています。

(3)世論調査の問題もあります。直前の調査でもカンター候補は65%とか58%という優勢が伝えられる中、陣営にも支持者にも慢心があったようです。

(4)カンター候補はそれでも潤沢な選挙資金を使ってTV広告なども打っていたのですが、「ブラット候補を叩くネガティブ・キャンペーン」を行ったことで、全く無名のバート候補の「知名度アップに手を貸した」という結果になったということもあるようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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