コラム

米民主党が「反日」という誤解

2014年01月21日(火)10時47分

 自民党の総裁特別補佐である萩生田光一衆院議員は、同党の青年局会議の場で、オバマ政権が安倍首相の靖国神社参拝に「失望」を示したことについて「共和党政権のときはこんな揚げ足をとったことはなかった。民主党のオバマ政権だから言っている」と述べたそうです。

 このような「民主党は反日」であり、「共和党は親日」という認識は、確かに戦後の日本の政官界には強くありました。また、それなりの理由はあったのです。例えば、民主党は何と言っても第二次大戦を遂行した政党です。FDR(ルーズベルト)にしても、トルーマンにしても戦前の日本にとっては「敵」であり、また彼等の手によってなされた一連の「戦後改革」についても、その「逆コース」に乗って右派的政権を作っていった自民党の多くの人々にとっては反発の対象であったのだと思います。

 これに対して、共和党というのは「日本の保守の直接の敵」ではなかったとも言えます。例えばアイゼンハワー大統領は、日本への原爆投下に批判的であったようですし、もっと世代的には若いですが、90年代から2000年代に右派論客として鳴らしたパット・ブキャナンは「先の大戦で日本を敵に回す必要はなかった」という「史観」を披瀝していました。そういえば、第二次大戦中の日系人の強制収容に関して公式謝罪と補償を行ったのも共和党のレーガン政権でした。

 また、アメリカの民主党の言う「人権や理念」が日本の保守派の持っている「生存のための現実主義」からは「鬱陶しく」思われるという「相性の悪さ」があったり、逆に共和党が党是としていた自由貿易主義が、「貿易立国時代」の日本には有利な政策と思われていたりというような条件もありました。

 ですが、そうした構図の多くは過去のものとなり、現在の国際政治における「共和党と民主党」の対立軸に関しては、複雑な変化と「ねじれ」の中にあるのです。

 例えば、日本の文化について「クールジャパン」であるとして、高い関心を示す動きは現在でもアメリカでは根強く続いています。こうした異文化への関心、特にキリスト教的な善悪二元論とは「異なる価値観」に興味と尊敬を示すというのは、アメリカの場合は民主党カルチャーです。JFKが上杉鷹山の思想に私淑していたとか、そのお嬢さんのキャロライン・ケネディ大使が『方丈記』に象徴される日本の世界観に深く共感しているというような例は、決して例外的な事象とは言えません。

 特に現在のオバマ政権の姿勢というのは、基本的に明確な親日政権であり、多くの問題に関して「これ以上望みようのない」そして「ブレのない」姿勢で、軍事外交に関しても、二国間の文化や社会的な交流にしても日本を重視していると言って過言ではないと思います。

 中国に関する民主党と共和党の立ち位置も大きく変化しています。例えば、2001年から08年に至る共和党のジョージ・W・ブッシュ政権というのは、米ソ冷戦終結後の世界において接近を続けた米中関係を一気に密接な関係にしていった、顕著な親中政権であるという評価が可能です。台頭する中国マネーに米国債の引受をさせる一方で、ウイグル族への弾圧は「イスラム原理主義勢力のテロ活動との対決」だという中国側の「詭弁」を受け入れています。特に江沢民の引退にあたっては、ブッシュはテキサスの私邸に招いて懇談するなど、最大限の接遇もしています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アジア、昨年は気候関連災害で世界で最も大きな被害=

ワールド

インド4月総合PMI速報値は62.2、14年ぶり高

ビジネス

3月のスーパー販売額は前年比9.3%増=日本チェー

ビジネス

仏ルノー、第1四半期売上高は1.8%増 金融事業好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story