コラム

ボストン爆弾テロから2日、情報が錯綜する中で犯人像の可能性は?

2013年04月18日(木)14時14分

(※引き続き速報です。あくまで現地時間の事件当日4月17日の21時半現在の情報に基づいての記述であることをご承知おきください。)

 事件から2日が経過しました。犠牲者の3名は、8歳の男児、29歳のレストランマネージャーの女性、そして中国の遼寧省瀋陽市からボストン大学大学院に留学中の女子学生(数学と統計学専攻)であると発表され、ボストンだけでなく、アメリカは喪に服しています。

 その一方で、17日の水曜日は目まぐるしい動きがありました。まず、物証として「爆弾容器にされた圧力鍋」であるとか「黒いダッフルバッグの破片」が回収されたこと、あるいは、現場を撮影した写真やビデオの解析が進んでいるなどといった情報が、当局から発表される一方で、FBIとボストン市警は「捜査に重要な進展があった」として会見を設定すると発表したのです。

 この「会見」ですが、一旦実施されると発表されたにも関わらず、それが延期されると発表された後の午後2時前後に、一部のメディアを通じて「有力容疑者を特定、既に身柄を拘束」という情報が流れました。それも逮捕状が出たとか、いや「まだ」であるとか、あるいは連邦裁判所に容疑者が入ったなどと複数の情報が錯綜したのです。

 ですが、結果的に3時頃までに「身柄確保」という情報は全部消えてしまいました。その一方で、ボストン市内の病院や裁判所で「爆破予告があったらしい」という理由での避難騒動が起きています。その後、会見は「午後5時」に設定され、同時に「捜査に重要な進展、監視カメラ映像から1人の人物が浮上」という話になりましたが、その「5時」になると会見は再び「60~90分延期」となり、更に「8時頃には」という情報もあったのですが、それもキャンセルされています。

 そんなわけで、捜査当局もメディアも混乱を見せているわけですが、物証と映像の解析が進んでいるのは事実のようです。では、その犯人像についてはどう考えたら良いのでしょうか?

 現時点では、国防総省が「アルカイダ系の犯行を匂わせる情報はなし」と発表する一方で、国内の極右、とりわけ前回のこの欄でもご紹介した「アトランタ五輪テロ」との類似や、今週の19日の金曜日に「テキサス州ウェイコでの新興宗教教団自爆事件」の「20周年」や「オクラホマ連邦政府爆破」の「18周年」を迎えることとの関連が考えられるわけです。

 ただ、犯人像を「プロファイリング」しようとした場合に、こうした「国内の極右テロ」というのは、100%今回の事件のイメージに合うのかというと、そうでもないのです。確かに、世界の国旗がはためく中で「エチオピアやケニアの選手が優勝する」ような「国際色豊かな大会」が「リベラルの牙城であるマサチューセッツ」で行われるということに、過激な右派が反発するということはありそうです。

 ですが、アメリカの右派のカルチャーというのは、基本的に「マッチョ」なのです。彼等はアメリカン・フットボールやアイス・ホッケーなどの競技を好み、そうしたスポーツの背景には、アメリカならではの「走れ、走れ」というカルチャーがあるわけです。いくら、国際色やリベラルな土地柄は憎いのだとしても、マラソンという「純粋に走る」カルチャーに対して、ここまで陰湿な攻撃を仕掛けるというのは、草の根保守の発想からすると不自然にも思われます。

 そこで考えられるのが、FBIがカテゴリとして掲げている「ローン・ウルフ(一匹狼)」型の犯罪です。

 その典型となるのが、70~80年代のアメリカを震撼させた連続爆弾テロ事件の犯人「ユナ・ボマー」こと、セオドア・カジンスキーの事件です。カジンスキーは約17年間に少なくとも16回の爆弾テロを行い3名の死者をはじめ多くの負傷者を出しています。元々は数学者であり、ハーバードをトップクラスの成績で卒業し、若くしてカリフォルニア大学バークレー校の教員になっているのですが、その後は大自然の中に潜伏しては爆弾を製造して送りつけるという行為を延々と続けたのです。

 カジンスキーの場合は、最後に「俺のマニフェストをニューヨーク・タイムズが掲載したら犯行を中止する」として、同紙に「自然を破壊する人間のテクノロジーの否定」というようなメッセージを掲載させたのでした。結果的にこの文章を見た弟が「この言葉遣いは兄かもしれない」とFBIに通報して捜査が進展し、最後は山奥にあった山小屋を爆弾処理班を含む大部隊が取り囲んで御用となったのでした。1996年のことです。

 この種の「マッド・サイエンティスト」的な一匹狼の可能性に加えて、FBIの元捜査官などが指摘しているのは、「国外の要素に影響された国内犯」つまり「アルカイダに共感したアメリカ国内犯」というような可能性です。

 いずれにしても、この17日の時点では、FBIとボストン市警による公式の記者会見はなさそうですが、20時過ぎにCNNに出てきたマサチューセッツ州のパトリック知事は、やや穏やかな表情を浮かべていましたから、もしかしたら容疑者に関しては相当に絞り込みができているのかもしれません。

 最新の報道では「白い野球帽をかぶった黒いバックの男」が捜査対象になっていて、監視カメラに「携帯電話で通話している」映像があることから、携帯回線の履歴から本人が特定されつつあるというストーリー、あるいは爆発直後に高性能のデジタル一眼で現場を「連写」したカメラマンの映像に映っている「白煙の中で逃げ足早く消えた人物」も話題になっています。

 複数犯という情報もありますが、仮にそうだとすると、これは全くの想像ですが、もしかしたら1人は拘束していて、もう1人を追う中で病院や裁判所に「厳戒態勢」が敷かれたなどという可能性もあるかもしれません。いずれにしても、捜査はヤマ場を迎えているようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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