コラム

日本の総選挙の結果をどう見るか

2012年12月17日(月)12時36分

 アメリカはコネチカット州の小学校での乱射事件のショックに沈んでおり、日本の総選挙のニュースは「囲み記事」であるとか、「画面下のテロップ」という扱いしか受けていません。ですが、とりあえず今回の選挙を「遠くから」見ていた者として、直後の感想をメモしておきたいと思います。

(1)民意は「少々勝たせすぎた」と思っているのではないでしょうか? 大量当選を「権力の白紙委任」などと考えたら失敗します。憲法論議などは、あくまで景気と雇用で実績を上げて信用を獲得してからでないと難しいということを肝に銘じた方が良いと思います。

(2)特に難しいのが原発に対する選択です。再稼働を明言した自民党が圧勝したからと言って、ドンドン再稼働する、その一方で情報公開などで古い体質が出ると世論はソッポを向くと思います。原発だけでなく、一時が万事であり、同じ自民党だからと言って以前の麻生内閣以前の時代のコミュニケーション様式に戻してはダメだと思います。

(3)元に戻してはダメなのは、日米関係も一緒です。オバマ大統領は、ルース駐日大使と一緒に、日本の世論の複雑な多層構造を理解してきているように思います。「対中国のパワーバランスには敏感」その一方で「沖縄の負担は減らしたい」という論理的には矛盾する世論を無視して、昔のように「自民党が仕切ります」と言っても、信用はされないでしょう。

(4)同じように、公共投資で景気浮揚というような行動は、過去20年続けているわけです。それでも、経済のファンダメンタルズが改善しない、中長期の日本の産業構造に関するビジョンが見えない中で、効果は極めて限られるのが現状です。この点に関しては、世界の市場も同様の懸念を持って見つめているというべきでしょう。

(5)民主党は惨敗でしたし、現職閣僚など大物が落選しています。ですが、辛うじて小選挙区で勝ち残った人々は、もう少し胸を張っていいと思います。安倍晋三氏に「セカンドチャンス」が与えられたように、野田、岡田、前原といった人々は捲土重来を期して精進すべきでしょう。現在の党の枠組みを守るかは別問題としても。

(6)投票率が低かったのは、私の直感ですが、もしかしたら厳冬期のために高齢者が投票所に行けなかったためではないでしょうか? ネット選挙とか、電子投票というと「若い世代が有利になって民意が変わってしまう」という抵抗感を持っていた層もあるようですが、投票方式の工夫をしないと高齢者の投票率も確保できなくなるのではと思います。

(7)小選挙区制ですが、政権担当可能な2大政党が理念的な部分で拮抗するというビジョンは崩壊してしまいました。今は、政権与党を晒し者にして「思い切りお灸を据える」ために「徹底的に振り子を左右に揺らす」ためのシステムになっているように思います。選挙制度の本質的な再考が必要な時期に来ていると思います。

(8)それにしても、16日に結果が出て、首班指名と新政権発足が26日という「のんきさ」には呆れます。日本経済は、そんなことをやっている場合ではないと思います。

(9)第三極は今回はダメでしたが、もう一度「大阪維新の会」と「みんな」を中心にして政策論議を詰めて、質の良い候補者を揃えればチャンスは有るのではと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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