コラム

とりあえず9・11を乗り切ったオバマ、さて中間選挙の行方は?

2010年09月13日(月)11時07分

 土曜日の9・11から9年、とりあえず混乱は回避されました。「コーランを焼却する」と「脅迫」していたフロリダの「牧師」はニューヨークまでやってきて計画の中止を表明しました。またここ数カ月の間、緊張の高まっていたニューヨーク市内の「グラウンドゼロ」近隣のモスク計画問題については、支持派と反対派のデモは行われたものの、建設予定場所については警察が厳重に封鎖を行ったために大きな混乱は生じませんでした。

 9・11当日ですが、各地で例年同様に慰霊祭が行われています。ニューヨークの世界貿易センタービル跡では、ここ数年の伝統となっていた円形の池を作って、そこに遺族や友人が花を浮かべるスタイルは例年通りでしたが、跡地再開発の建設が進んでいることもあって、コンクリートを打った白い空間に設定された「池」の光景は昨年とは異なっていました。中には「この日だけは故人と遺族をそっとしておいて」というプラカードを掲げた人もいました。

 オバマ政権の対応としては、大統領自身は同じく9・11の攻撃を受けたペンタゴンの慰霊祭に参列して、「我々はイスラムと戦っているのではない」と宣言、その内容は冷静で練られたものでした。一方で、右派的なムードが生まれがちの風土のあるペンシルベニア州のユナイテッド機墜落現場には、ミシェル夫人を派遣してスピーチさせ、更に超党派的な演出としてローラ・ブッシュ前大統領夫人も同席させるという慎重ぶりでした。

 この日の隠れたヒーローは、NBCのカール・クワンタニア記者でしょう。いつもはCNBCという経済局の早朝番組「スクオーク・ボックス」のキャスターとして、午前6時から9時までその日の株式市場がオープンする前の様々な情報を提供する番組の司会者なのですが、この9・11の日は、フロリダからやってきた「ジョーンズ師」との単独会見のインタビューアを務めたのです。この中で、クワンタニア記者は「今晩、コーランを焼くのは中止ですね」という質問に「イエス」と答えさせただけでなく、「今後も決してやらないんですね」という念押しを厳しい語調で行って「やらない」という明確な言質を取っていました。

 このやり取りがあったのが、東部時間の午前7時35分ごろであり、この発言を引き出したことでようやくニューヨークの街は、そしてアメリカは静かに9・11の慰霊へと向かうことができたように思います。勿論、様々なレベルからの根回しがあった上での「やらない」という発言だったのでしょうから、クワンタニア記者個人の手柄というわけではないでしょう。そうではあっても、やはりインタビューの姿勢を含めて、彼の功績は大きかったと思います。

 翌日の12日の日曜日からは、少しだけ風向きが変わってきています。この日には昨年に続いて「ティーパーティー」がワシントンでデモを行ないましたが、プラカードなどの内容は「小さな政府」論に絞ったものだったようです。相変わらず連邦税に反対とか、連邦政府は犯罪的収奪組織などという過激な文言も見られたようですが、少なくとも報道された範囲では人種や宗教をめぐる憎悪のようなものは少なかったようです。

 これと前後して、オバマの宿敵というべき下院共和党のベイナー院内総務が、ここのところ激しい対立となっていた「ブッシュ減税の延長問題」に関して、オバマの主張している「富裕層以外の減税は継続」という案に理解を示したという報道が流れました。共和党としては、本来は富裕層減税も譲れないはずでしたが、左右のポピュリズムが色濃く出てくる小規模小選挙区の下院議員選へ向けては、このほうが現実的と考えれば妥協も可ということなのでしょう。

 そんな中、共和党の主流派は、ティーパーティーの勢いを止めようと必死になっているようです。というのは、ベイナー院内総務の妥協姿勢のように、中道の有権者もに受ける政策を出しながら悠然と上下両院の多数派を狙いたい党の主流にとって、極端なティーパーティー候補が乱立することで、中道票を取り逃がして「みすみす過半数を取れない」事態は避けたいからです。当面、14日のデラウェア州予備選が注目されます。ティーパーティー系のオドネル女史の挑戦を受けている、元知事のキャッスル下院議員の上院議員候補指名を何とか守りきりたい、そうでないとデラウェアを民主党に押さえられてしまう可能性が出てくる、そんな重要な予備選だからです。

 そのティーパーティーの事実上のリーダーである、サラ・ペイリン女史は、中間選挙後の11月23日に2冊目となる「アメリカ・バイ・ハート」という著書を出版するようです。内容は文字通り国粋主義的な「ハート」を扱ったもので、家族や信仰、そして星条旗への思いを綴ったものだそうで、そうなると事実上の「大統領候補への名乗り」となる、そんな憶測も可能です。仮にそうだとして、ペイリン人気がどんどん進んで、共和党の中枢は困惑しつつも無視もできない中、「実力のある本格候補」がなかなか出てこないようですと、2012年に関してはオバマの再選に有利になってくる可能性もあります。その前の今年の11月の中間選挙に関しては、オバマとしてはある程度の敗北は織り込みつつあるのかもしれません。

 いずれにしても、9・11へ向けた「イスラム」をめぐる騒動の結果、中道層にとっては少しだけ「草の根保守」へのシンパシーが醒めたかもしれず、また保守系の政治家も、これ以上「反イスラム」を言ったりその動きに乗ることもなさそう、そんな空気が出てきています。中間選挙に関しては、意外な接戦になるかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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