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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
「サイバー・マンデー」の謎
アメリカ経済にとって、この時期の「歳末商戦」は極めて重要です。特に今年の場合は、低迷する個人消費が反転するかどうかの瀬戸際と言われています。その中には、何日か重要な「日付」があります。まず先週の金曜日、11月27日が「ブラック・フライデー」で全国のデパートや専門店、ディスカウントショップは年に一度の大バーゲンでした。その次の月曜、つまり今週の週明け11月30日は「サイバー・マンデー」と呼ばれていて、こちらはネット販売の「一年に一度のバーゲン」日としてすっかり定着しています。元々は、2000年前後のIT革命によってアマゾンなどのサイバー通販が流行し始めた際に、感謝祭の連休明けの月曜日に注文が集中したために、徐々にこの日を各社が意識するようになった結果、そう呼ばれるようになったのです。
ところで、どうしてネット通販の注文集中日が連休中ではなく「連休明けの月曜」なのでしょう? 謎などという言い方をしましたが、答えは簡単で「みんな職場のコンピュータから注文している」からです。今年の場合は、前年度比で売り上げが14%アップしたとか、そもそもネットの通販サイトのトラフィックは40%以上増えたとか、景気の良い話題が出ているのですが、そのほとんどは職場からのアクセスなのです。勿論、専業主婦や在宅勤務の人のアクセスもあるでしょうが、月曜日にトラフィックが急増するというのは、職場からネットサーフィンをやっている人が圧倒的だという証拠です。調査によると、自宅にブロードバンド接続環境のない人が、オフィスの接続環境でショッピングをする例も多いそうです。
勿論、アメリカでもこうした傾向に批判はあります。セキュリティの見地からも懸念を表明する経営者もいます。ですが、こうしたネットサーフィンは事実上黙認されていると言って良いでしょう。こうした慣行には文化の問題が絡んでいます。ネットが普及する以前でも、勤務時間中の私用電話については、短いものであれば、着信も発信もアメリカの職場はほぼ自由でした。また、各自がオフィスに家族の写真を飾ったり、日を決めて子供に職場見学をさせたりというように、職場における個人の姿が特殊なヨロイを着たものではなく、社会人であり家庭人であるその延長の自然体で良いという文化があります。これも、職場での「ディスプレイに向かってショッピング」を許している背景にはあると思います。
そう申し上げると、だからアメリカの労働者はモラルが低い、というような声が聞こえてきそうです。ですが「サイバー・マンデー」に多くの社員が勤務時間中に「お買い物」をやっているアメリカの事務職は、決して生産性は低くないのです。80年代に終身雇用制がどんどん崩壊し、以降リストラを繰り返してきたアメリカの職場は、今回の「リーマンショック」で再度大幅な要員カットを進めています。にもかかわらず、ネットサーフを許す余裕があるというのはどうしてなのでしょう。これこそ「サイバー・マンデ」ーの謎というべきです。
アメリカのオフィスワークの生産性を支えているのは、色々な要素があると思いますが、最大の問題はコミュニケーションです。社内の意思疎通はメールがほぼ100%です。必要な管理職や関連部門についてCCしておけば、メール1本で情報が上まで上がりますし、かなりのスピードで決定も降りてきます。人材の観点から言えば、職位が上がれば上がるほどメールの処理数が増えるので、処理能力も要求されます。エグゼクティブとは「多量の情報処理をする機能」と言って良く、そのような上級管理職に対して「事前に文書を送った上で直接説明に上がる」などということは、余程複雑な内容でその場のアドリブでの質疑応答の方が生産性が高い場合以外はありません。結果的に情報の行き来も判断もスピードアップされて、効率は非常に高くなっていると思います。
そう考えると、ITによる生産性の向上分の何パーセントかが「勤務時間中のネットサーフのお目こぼし」という形で、従業員に還元されているという見方もできるでしょう。その結果として、ネット通販が活性化して個人消費に寄与しているのであれば、経済全体で見てもある種の好循環になっているというわけです。まるで、手品のような話です。ですが、ITの持っている爆発的な生産性というものは、うまく扱わないと付加価値の金額を破壊して構造デフレを引き起こし、結果的に人々の生活水準向上にはつながらない危険があるのです。そんな中、この「サイバー・マンデー」の謎というのは、色々な角度から見て興味深い現象のように思います。
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