コラム

オバマ政権に死角はないのか?

2009年05月11日(月)11時15分

 大統領がホワイトハウスの「番記者」を集めて行うディナーでは、大統領が「くだけた」即興スピーチをするのが恒例になっています。5月9日の土曜日、就任後はじめてこのディナーに臨んだオバマ大統領のスピーチは、珍しく「滑りっぱなし」でした。

「ヒラリー国務長官とは確かに予備選では対決しましたが、今ではメキシコ出張から帰ってきた長官から熱烈なチューをもらうぐらいですよ」という放言(?)が世界中で有名になったようですが、それ以外もかなり「危ない」ネタを連発していたのです。

「私が次の100日間に何をするかですか?『最初の100日記念図書館』の計画を仕上げようと思っているんですよ」(過去の歴代大統領が退任後に巨額の募金を集めて、自身の記念図書館を建設したことへの皮肉)

「チェイニー前副大統領は自伝の執筆で忙しいらしいですよ。仮のタイトルは『親友を狙撃する方法と、拷問方法の考察』」(前副大統領が猟銃で友人を誤射したことと、テロ容疑者への拷問を容認していたことへの皮肉)

 ここまではまだ許せる範囲でしょう。若く優秀な頭脳を集めたオバマの「スピーチライター・チーム」も大統領自身も「お笑いネタ」は苦手、言い過ぎもある種のご愛敬としてしまえば、まあ何とかなるレベルです。

 ですが「共和党というのは公的資金注入の資格はないですね」という部分、これはシャレにはならないでしょう。

 金融機関への救済に共和党が反対したという経緯を踏まえて、ここへ来て党勢が落ちてきている共和党への容赦のない皮肉、これは確かにキツい一撃です。

 この5月9日というのは、前日に「金融機関のストレステスト結果」の財務省・連銀による発表が市場に支持されたこと、心配された予算案も上院共和党のスペクター議員の民主党鞍替えというサプライズで一気に有利な情勢になっていること、危機管理としての新インフル対策も国内世論を平静に誘導できたというわけで、政権内には「最悪の事態は脱した。ここまでは大成功」という気分になってもおかしくない雰囲気があり、それがホンネとして出たということだと思います。

 確かにブッシュ時代から民主党の天下へと、ここまで大きく「振り子の揺り戻し」に成功したのは紛れもない事実ではあります。

 ですが、あれほど盤石の支持を誇ったそのブッシュ政権が「ハリケーン・カトリーナ」上陸時の危機管理失敗で支持を失っていったように、合衆国大統領への国民の支持というのは変わりやすいものです。正に「政界の一寸先は闇」の世界がそこにはあるわけで、僅かな気のゆるみが命取りにもなりかねません。

 これからの「第2の100日」そして、来年2010年の中間選挙へと、オバマ政権が真の「チェンジ」に成功するかどうか、実は「最初の100日」以上の困難が待ち受けていると言えます。

 金融危機のネガティブトレンドを強引に反転させたのは良いが、実体経済を再建することができるのか?エコカーやグリーンエコノミーといった新産業の立ち上げは可能なのか?国際協調や核軍縮を実行する中で、理念で国際社会を指導するだけのリーダーシップを確立できるのか?一言で言えば、アメリカが本当に変われるのかが問われていると言っても過言ではありません。

 このブログでは、そうしたアメリカ社会の変化をできるだけリアルタイムでお伝えしようと思っています。

 政治経済の動きに加えて、時には映画をはじめとするエンタメのトレンドの中に、ある時は野球場の熱狂の中にある「空気」なども交えて、生きた時代の呼吸感を少しでもお届けできればということです。

 基本的には週3回、動きの激しい時期にはこれに不定期の更新も加えて行きたいと考えています。頻繁にお立ち寄りいただければ幸いです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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