コラム

弁護士大量拘束事件と「法治国家」のデタラメ

2015年07月27日(月)11時02分

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 中国の人権派弁護士が最近、共産党政府によって計画的かつ大規模に拘束された。これは歴史的な事件だ。ウィキペディアの中国語版にはすでに『中國710「維權律師」大抓捕事件』の名前で項目が立っている。

 「710」は2015年7月10日、つまり政府が全国で弁護士拘束に乗り出した日を指している。7月25日午後10時の段階で、少なくとも225人の弁護士あるいは弁護士事務所の関係者が拘束、失踪、警察の事情聴取、短期間の行動の自由の制限を受け、その範囲は23の省・直轄市に及ぶ。

 この大拘束劇の最初の犠牲者は王宇弁護士一家だ。7月9日未明、数十人の警察官が麻薬捜査の名目で王宇の家に踏み込み、この後彼女は行方不明になった。彼女の夫である包龍軍弁護士はオーストラリア留学に出発する息子の付き添いに行ったはずだったが、王宇の友人が空港関係者から聞いたところによれば、2人は出国しなかった。

 その後、王宇の息子は釈放されたが、家の鍵とパスポートを没収されたままだ。警察は彼に「キミは家に帰れない、出国して勉強しようと思うな!」と告げたという。警察はその後、16歳の彼を何度も呼び出し、弁護士への依頼や彼らとの電話連絡、さらに両親がどうなったか聞くことも禁じた。彼は今、警察に一日中監視されながら、祖母の家で暮らしている。

 現在も20人余りが拘束され続け、一部の弁護士はCCTV(中国中央電視台)で屈辱的に自分の「罪」を認めることを余儀なくされた。ほかの官製メディアも容赦ない。最高裁はSNSの新浪微博(シンランウェイボー)上で、彼ら弁護士が犯罪者集団だと断罪した。

 私は今回の事件が、習近平の掲げるスローガン「法によって国を統治する(依法治国)」のデタラメぶりを露呈していると思う。文明国家である日本に住む読者の皆さんにとって、このような悪行は想像をはるかに超えるだろうが。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

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