Picture Power

【写真特集】霧の中にたたずむ気候変動の罪なき犠牲者

THE DAY MAY BREAK

Photographs by NICK BRANDT

2021年11月09日(火)14時30分

「アリス、スタンリーと ナジン」(ケニア、2020)

<気候変動の最大の被害者は、地球環境にわずかな影響しか及ぼさない人々や野生動物であるという不条理>

世界は今、各地で気候変動が原因の大規模な山火事や洪水、記録的な熱波や干ばつに見舞われている。イギリスの写真家ニック・ブラントは、気候変動で最も生活と生命を脅かされる人々と野生動物を、一緒の写真に収めるプロジェクトを開始した。

地球規模の環境破壊を告発する最初の写真集として今年発刊された『The Day May Break』でブラントは、自然環境が失われつつある現状を「霧」を使って象徴的に表現した。人々と動物は同じ霧の中にたたずむ。人間も動物も等しく、地球という小さな惑星に暮らす住民だからだ。

被写体となった野生動物は、いずれもケニアやジンバブエで保護された動物たち。動物たちは生息域の減少や密猟、有毒物の摂取などに苦しめられ、二度と自然の中に戻ることはできない。

一方、被写体の人々は、その多くが何年も続く干ばつで土地を追われた。サイクロンで家を破壊されたり、洪水でわが子を失った人もいる。

ブラントは記す。「地球環境にわずかな影響しか及ぼさない人々が、気候変動の最大の被害者であることは、残酷な皮肉だ」

<冒頭写真の説明>
かつてはアフリカ中部全体に生息していたキタシロサイだが、密猟によって個体数は激減。ナジン(左)は生き残った2頭のうちの1頭だ。アリスとスタンリーの夫婦はケニア中部で暮らしていたが2017年の洪水で家を失った。現在、夫は電気技師、妻は洗濯業を生業にしている


ppclimate02.jpg

「リチャードとオクラ」(ジンバブエ、2020)カンムリクマタカのオクラは、ジンバブエのクインバシリ野鳥公園で保護された。森林破壊でカンムリクマタカの生息域も急速に失われている。ジンバブエ東部に住むリチャードは、かつてはトウモロコシ農家だったが2010年以降の干ばつで生計を立てるのが難しくなっている


ppclimate03.jpg

「ザイナブ、その母ミリアムとフリーダ」(ケニア、2020)メスのクーズー(ウシ科の動物)のフリーダは、2018年にオルジョギ動物保護区で保護された。母親は密猟者に殺された可能性が高い。ミリアムと娘のザイナブは、17年の洪水で家が流された。夫は2人を残して家を去り、ミリアムは今ビール工場で働いている


ppclimate04.jpg

「レジーナとジャック、リーバイとディーゼル」(ジンバブエ、2020)チーターのディーゼルとリーバイは生後6週間で動物保護区に引き取られた。生息地域の減少でチーターの個体数は激減している。首都ハラレ近郊に住むレジーナとジャックは農業で生計を立ててきたが、干ばつで水が不足し、今は生活支援に頼らざるを得ない


ppclimate05.jpg

「ギスイとキマンジョ」(ケニア、2020)ケニア中部に住んでいたギスイは干ばつで農業ができなくなり、今は歩くのが困難で仕事に就けない。シマウマのキマンジョは、生後間もなくケニアのオルジョギ動物保護区に保護された。母親はおそらく密猟者に殺されただろうという

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story