コラム

Black Lives Matter、日本人が知らないデモ拡大の4つの要因

2020年06月09日(火)17時30分

フロイドの殺害現場で、ろうそくを手にたたずむ人(ミネソタ州ミネアポリス、6月3日) LUCUS JACKSON-REUTERS

<丸腰の黒人が白人警官に窒息死させられた事件。パックンがマジメに、デモがこれほどまでに拡大した理由を解説する。黒人たちの苦境、燃え上がる暴動、火に油を注ぐ大統領――これが今のアメリカだ>

暴動だ。黒人の間で警察に対する怒りが爆発し、アメリカの街が燃えている──。

では、これは「いつの話」なのでしょうか。2014年に、ミズーリ州セントルイスで丸腰の黒人男性が警官に射殺されたとき? 2001年に、オハイオ州シンシナティで丸腰の黒人男性が警官に射殺されたとき? 1992年に、カリフォルニア州ロサンゼルスで丸腰の黒人男性が警官に半殺しにされたとき? 1979年に、フロリダ州マイアミで丸腰の黒人男性が警官に殺されたとき?

「2020年5月に、ミネソタ州ミネアポリスで丸腰の黒人男性が警官に殺されたとき」と答えた人、正解! いや、残酷な事件や被害を広げるような暴動はいつ、どこで起きたって、警察の行動としても、抗議の仕方としても、どうみても不正解だろう......。

前述の例は、黒人に対する警察の暴力と、そこから生まれた暴動のほんの一部にすぎない。しかも暴動が起きなかった同種の事件の数は、その何千倍にも及ぶ。2015年の1年間だけで丸腰の黒人が100人以上、警官に殺された。平均で週2回の頻度、近所の八百屋が特売品を出すペースで、丸腰の黒人が警官に殺害されている。

「丸腰」と限定しなければ、その数字はもっと上がる。黒人男性が警官に殺される割合は1000人に1人で、25~29歳の黒人男性の死因ランキングでは、これが6位に入っている! 中には警官の正当防衛もあるが、そうでないケースも多い。だが、黒人を殺した場合、警官への罰則はほとんどない。2015年の100件以上の丸腰黒人殺害に関わった警官の中で、有罪判決を受けたのはたったの5人。

でも今回爆発した国民の怒りは、こういった殺害事件だけから生まれたものではない。警察の差別的な行動は毎日のように起きているのだ。代表的なのは職務質問。車社会のアメリカだと、車を止めて、運転手と車の中を調べるtraffic stop(車両停止)の形が一般的だが、白人のほうが運転することが多いのに、黒人のほうが倍ぐらいの確率で警察に止められる。

止められた後、身体や車中を捜索される確率は白人の4倍。「黒人のほうが禁止物を持っていることが多いからでは?」との疑問が浮かぶ人もいるだろうが、実際に捜索された場合、白人のほうがより高い割合で、麻薬など法に触れるモノを保持している。まず白人を疑え! と、僕からは言いづらいけど。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

片山財務相、ベセント米財務長官と電話会談へ

ビジネス

英債券市場の非銀行金融機関、危機への備え不十分=英

ビジネス

英消費者信頼感、10月は昨年8月以来の高水準に並ぶ

ビジネス

全国コアCPI、9月は+2.9%に加速 電気・ガス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story