コラム

トランプ米大統領が再選されるワケ

2017年12月26日(火)11時40分

しかし、そこで与党・共和党はうまくやった。将来の増税に国民の目がいかないように、今すぐ実施される低・中所得者への短期的な減税も法案に盛り込んだ。そのおかげで「減税だ!」と言って国民に自慢できる。本当は「減税だ!そのあとで増税だ!」の方が的確な表現なのに。

しかも、時限爆弾的な増税のタイミングも絶妙。最終的に減税の期間が切れるのが2027年、つまりトランプの2期目が終わった後だ。減税を延長する選択肢もあるが、10年間税収が激減したあとでは増税は避けられないはず。そんなつらい仕事を担うのは次の大統領。またまた民主党の大統領が前任の尻を拭く羽目になる。
 
全体的に見事な作戦だ。数々のシングル・イシューをうまく利用することで、戦後の安全保障政策をひっくり返しても、国際合意を破っても、同盟国を裏切っても、三権分立を踏み倒しても、人権を侵害しても、財政を破綻させても、つまりアメリカ全体の長期的な国益を犠牲にしても、一部の有権者を喜ばせることに専念している。「負の政治塾」があれば塾長先生に指名したいところだ。

そして、ダークサイドのパワーはすごい。トランプが就任してからの9カ月だけで、共和党全国委員会に新記録となる1億ドル以上の献金が殺到している。この先、富裕層や企業への優遇策が実施され、さらにじゃぶじゃぶ入るはずだ。

でも、総額よりも大事なのは、寄付のほとんどは個人からの少額献金であること。この事実から、single issue voterが作戦通りに反応し、人々がお財布を開いて応援していることが分かると思う。当然、お金を投じた人は票も投じるはずだ。全国民の36%しかトランプを支持していないが、前回の大統領選挙の投票率は約55%だった。支持者全員が投票したら余裕で当選する見込みだ。

おっと、しないと言っていたのに、分析してしまった。でも、感情を頭脳で読むのも大事なことだ。第一、この読みが正しければ、またまた選挙予測が外れるといった恥ずかしい思いをしないで済む! その代わり、トランプ政権が続くけどね......。

2020年11月に頭を丸めてもいいから、今回も予測が外れますように!


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プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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