コラム

アメリカの戦争と格差を越える戦友たちの再会、『30年後の同窓会』

2018年06月07日(木)17時37分

聖職者にしてよき家庭人となったミューラーは、教会の説教で、「自分の心の奥底を見つめる時間を持ち問いかけるのです。私は神のご意思に喜んで身を委ねられるかと」と語っている。では、彼はそれを実践しているといえるのか。ドクから同行を求められたとき、彼はあっさり断ろうとする。彼の妻が説得しようとすると、旧友たちのことを「あの連中は私の暗黒時代の使者だ」と表現する。結局、彼はしぶしぶ同行するが、できることなら過去を封印してしまいたいと思っている。

ドクについては、あまり説明の必要もないだろう。妻に先立たれ、一人息子も亡くし、おそらくは周囲に信頼できる友人もいない彼は、悲しみに打ちひしがれ、どうしてよいのかわからなくなっている。

3人の関係に徐々に化学反応が起きる

そんな3人が、心の準備もなく再会すれば、彼らの間に化学反応が起こり、それが彼らの運命を変えていくことにもなる。

ドクが息子の遺体と対面する場面を見れば、その意味がよくわかるだろう。3人を迎えた大佐は、ドクに対して、彼の息子が後頭部を撃たれ、顔の損傷が激しいため、会わないほうがいいと忠告する。するとミューラーがすかさず「忠告を聞いて、生前の顔だけ覚えておけ」と囁く。ドクがその通りにしていれば、彼らの旅は、アーリントン墓地での葬儀ですぐに終わっていただろう。

だが、大佐に反感を抱くサルが、「俺だったら見る、絶対に。大佐に従う必要はない」と囁く。結局、ドクは遺体と対面することにし、その決断が、さらなる化学反応に繋がる。サルとミューラーは、ドクが遺体と対面する間、休憩スペースで待つことになるが、彼らを案内した大佐の部下の上等兵は、ドクの息子の親友で、彼が撃たれた現場にいたことがわかる。旧友たちは、その上等兵との会話から、戦死の状況について大佐が嘘をついていることを知る。

そこで再び綱引きが始まる。ミューラーは、ドクが真実を知らないほうがいいと考えるが、もちろんサルは黙ってはいない。その結果、ドクは息子を、アーリントン墓地ではなく、故郷に連れ帰って埋葬する決意をする。この映画では、そんな化学反応の連鎖が物語を形作っていく。

彼らの旅は、「真実」と「嘘」をめぐって展開していく

彼らの運命を変えていく化学反応は、時代背景とも深く結びついている。ドクが息子と対面する前夜、彼らが泊まったモーテルのテレビでは、サダム・フセインが米軍に拘束されたニュースが流れている。それを見つめるサルのなかでは、おそらく大量破壊兵器情報に踊らされたイラク戦争とドミノ理論に踊らされたベトナム戦争が重なり、「嘘」に対する怒りが増幅していることだろう。だからこそ彼は、大佐の嘘も許すわけにはいかない。

彼らの旅は、「真実」と「嘘」をめぐって展開していく。真実と向き合おうとする彼らは、やがて30年前に彼らに起こった"ある事件"のことを避けて通れなくなる。このように書くと、その事件がすべての鍵を握るかのような印象を与えかねないが、それは正しくない。リンクレイターは、過去を清算しようとする彼らの行動を通して、別なことを掘り下げようとしているように見える。

戦争と格差をめぐる隔たりが見え隠れする

この映画を観ながら筆者が思い出していたのは、帰還兵たちが直面する厳しい現実のことだ。たとえば、藤本幸久監督のドキュメンタリー『アメリカばんざい』や『アメリカ―戦争する国の人びと』、あるいはデイヴィッド・フィンケルのノンフィクション『帰還兵はなぜ自殺するのか』などで浮き彫りにされているように、アメリカではベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争の帰還兵たちが、PTSDに苦しみ、ホームレスになり、自殺している。戦場を体験した彼らは、様々な格差によって分断された社会に適応できずに、孤立していく。

この映画の主人公たちは、PTSDに苦しんでいるわけではないし、そこまで追いつめられてもいない。だが、再会した彼らの関係には、戦争と格差をめぐる隔たりが見え隠れする。リンクレイターは、そんな彼らが格差を超える姿を、真実と嘘の図式の逆転で巧みに表現している。映画の終盤で、嘘を受け入れざるをえなくなったとき、彼らはしっかりと過去を共有する。それは苦い体験ではあるが、確かに彼らはひとつになっている。


『30年後の同窓会』
(C)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC  
公開:6月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー!

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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