コラム

なぜ1人10万円で揉めているのか

2021年12月14日(火)12時03分

つまり、ここで景気対策にしようという案を提案するということは、10万円を配るのは、生活困窮を救うためではない、ということを告白しているのと同じである。

一方、結局ポイントはやめる、ということであれば、景気対策としての機能も諦めたことになる。まあ、これは妥当だ。なぜなら、現在はここ数年で一番景気が良く、来年後半以降景気が悪くなるから、今景気対策をすることは、もっとも愚かなタイミングで行うことになるから、それを回避したことになる。

さて、そうなると、10万円は、生活困窮を救うためでもなく、景気対策でもないことになる。

では、いったい何のためだったのか。

もちろん、選挙対策、有権者買収活動である。

それ以外に何もない。

しかし、選挙は終わってしまったから、いまさら配る必要はなく、配っても配らなくても衆議院選挙の結果はもう動きようがないから、どっちでもいいのである。そして、国民も、選挙前は、ノリで、与党と野党とどっちが感じがよいか、だけを眺めていたから、困っている人のためにカネを急いで配る、コロナ社会から回復する、元気を出す、というフレーズに、まあ頑張っているな、と思って安心したので、あえて与党を虐める必要もなく、ワーワー騒いでうるさい野党よりも、いい人そうな岸田さんに入れたのである。

だから、国民にとっても、もう10万円はどっちでもいいのだ。まあ、もらえたら嬉しいけど、という感じである。

しかし、政治家たちにとっては大問題が残っている。いうまでもなく参議院選挙があるからだ。

政治家が恐れているのは選挙でもない

ただし、参議院選挙があるから来年の8月まで景気を維持する必要がある、だからばら撒きはやめられない、というわけでもない。

政治家たちが経済効果などどうでもいいと思っているのは、前述の通りだ。

政治家たちは、自分たちの評判を維持するためだけに、ばら撒きを続けている。ばら撒く、と言ってしまった以上、ばら撒かなかったら嘘つきになり、イメージが悪くなる。

今の有権者、都市部の浮動票と呼ばれる有権者たちは、雰囲気とノリだけで投票する。だから、嘘つきとして野党に攻撃され、その姿がニュースやワイドショーで報道されるのが困るだけなのだ。有権者は、議論の中身など聞いていない。テレビやネットに移る姿、炎上具合だけである。

だから野党は、実際に国会中継をテレビで観察している奇特な私たち玄人からすれば、こんなえげつない揚げ足取りをしていたら、むしろ票を減らすのではないか、と思うような、破廉恥な攻撃を国会では行うのである。だから、提言型の感じの良い、建設的な議論は票にならないのである(国会中継を見た人は、与党が自民党であれ、民主党であれ、すべて与党に入れたくなるのではないか、といつも思う)。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、NATOへの関与に否定的発言 集団防衛

ワールド

北朝鮮が固体燃料エンジンの地上燃焼実験、金総書記が

ワールド

ウクライナ大統領がUAE・カタール訪問、防衛協力で

ワールド

全米で反トランプ集会 移民政策やイラン戦争に抗議 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 2
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 3
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 4
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    カタール首相、偶然のカメラアングルのせいで「魔法…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 8
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story