コラム

緊急経済対策で医療崩壊が深刻化する

2020年04月07日(火)19時15分

安倍は「リーマン・ショック時を上回るかつてない規模の対策を行っていきたい」と言った (4月1日、参議院予算委員会) Issei Kato-REUTERS

<この大き過ぎて的外れの緊急経済対策は日本を窮地に陥れるだろう>

緊急経済対策で医療崩壊が深刻化する

最悪だ。

緊急事態宣言に合わせて、緊急経済対策が発表される。事業規模108兆円、財政支出39兆円という前代未聞の規模だ。

米国の2兆ドルに比べて小さいとか、けちけちしているとかいうあまりに的外れな批判が野党やネットで飛び交うが、この経済対策は大きすぎて、日本を窮地に追い込むこととなるだろう。

安倍首相が、世界各国と比較しても遜色ない規模だ、と主張しているが、それどころか、圧倒的に世界最大だ。米国は大企業への支援を含んで2兆ドルである。日本はANAなど航空業界への債務保証などは含んでいないはずだ。一部のインテリとネット民が賞賛するフリーランスにも休業補償をするイギリスの経済対策の規模はたった4兆円だ。

その米国は感染者数は世界一で30万人を超え、死者数も1万人を超えようとしている。日本の100倍だ。イギリスはすでに5000人近い。

コロナによる死者は世界最小水準、被害が最も少ない国が、世界最大の経済対策をしようとしている。

なんと愚かなことか。

日本のコロナ対策は世界一だった

いまさら緊急事態宣言をして、ロックダウンはしないといいつつも、そう念を押すということはロックダウンに近い行動をとる人々がいる可能性が高いからで、疎開による感染者拡大、しかも、東京に比べれば圧倒的に医療施設がすぐに不足してしまう地方に拡散してしまうリスクもある。

社会活動をゼロにすれば感染の拡大を抑えるのに一定の効果はもちろんある。しかし、ニューヨークでもイタリアでも、即効性はなく、時間がかかり、今後も死亡者数の増加数の水準は低下していくだろうが、終息には遠い。いずれにせよ長期戦だ。ロックダウンしてすら、その効果は大きいとはいえない。これまでの自粛で日本は一定の効果を上げてきた。医療崩壊を防ぐために全力を挙げ、経済封鎖はしないということとの比較はなされていない。すべてはバランスだ。社会、経済を殺すか、すべてを犠牲にしても感染をほんの僅かでも少なくするか。

今必要なのは、医療崩壊を防ぐことであり、それには医療関係者、設備、備品の動員が必要である。緊急事態宣言があればやりやすい面はあるが、なしでもできる。そして、緊急事態宣言をしたために、休業手当を労働法制的には企業が負担する義務がないという解釈も成り立ち、それで政府が大盤振る舞いをする必要が出てくる。

自滅だ。

新型コロナの死亡者が少なく、うまくこれまでやってきた国が、欧米の失敗例をことさらに強調して、次は東京だと脅されて、万が一のために万全の備えと称して、費用対効果の非常に悪い緊急事態宣言、ロックダウンではないが、それに近い経済封鎖を行う。そして、経済をわざわざ自ら縮小させて、それを補うために、国の金をばら撒く。知事の懐は痛まないが、将来の国民の金は失われる。

<参考記事>日本が新型肺炎に強かった理由

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中

ビジネス

アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待

ビジネス

英CPI、11月+3.2%に鈍化 市場は18日の利
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story