コラム

官製ファンドはすべて解散せよ

2018年12月06日(木)13時30分

事態の収拾を迫られる世耕弘成経産相 Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<9月に発足したばかりの官民ファンド、産業革新投資機構と経済産業省が対立している。経産省側が機構の経営陣にいったん提示した高額報酬を、高過ぎると引っ込めたからだ>

産業革新投資機構(JIC)の問題が報道されているが、報道されている限りでは、明らかに政府、経済産業省の行動があり得ないもので、これでは機構側は対立せざるを得ない。

高額報酬が問題なら人材は集まらないし、今回の問題は、政府側が、あいまいなルールにしておいて、後で介入できる余地を残しておこうとした姿勢、考え方が根本的な問題なのだ。

投資はリターンを追及するものであり、政治的な配慮が少しでもあった瞬間に崩壊する。これまでのいわゆる官民ファンド(実態からいって、私は官製ファンドと呼ぶべきだと思っているが)がすべて失敗に終わっているのはそれが理由だ。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もあれだけのリスクをとるのであればもっとリターンが出るはずで、実際に企業年金基金にパフォーマンスは劣っている。

この問題点を解決するために、今回の投資機構は政府の介入を完全に排除し、すべてリターン優先で、という考え方を貫徹するために作ったものであり、それを根本から崩壊させる、政府が出資しているのだから口出しできないのはおかしい、という議論を声高に主張する政府の関係者(一部かもしれないが)は100%間違っている。

私は、そもそも、今回の革新投資機構にも当初から強く反対しており、その理由は、政府が(政治が)介入しないわけがない、と思っていたからで、これだけの人材を集め、これまでとは違うと強調されても、まったく信じていなかったから、やはり、というだけで、怒りも批判する気もない。

そもそも、官製ファンドなど日本では不可能なのだ。

政治のレベルが低すぎる

日本の政治のあり方からして、日本にはそんなことはできない。GPIFがリスクをとることに反対なのも、同じ理由だ。

投資業界や金融業界の所得や金銭感覚には強い嫌悪感があるが、それが現実であるなら、投資を本気でするなら仕方がない。

もっといえば、政治のレベルが極端に低すぎて、何もまともな改革はできないのだが、それがもっとも顕著に現れるのが投資の領域だ。

ひとつ意外だったのは、今回の動きは政治家サイドの愚かさから生じたものだと思っていたが、報道を聞いていると、どうも経済産業省の官僚サイドの幹部もそのような意見のようなニュアンスがあることだ。もしそうだとすると、日本の官僚(少なくとも経済産業省)の終わりを意味する。

いまだに自分たちが日本でもっとも優秀であり、民間でできることは自分たちが本気でやれば何でもできると勘違いしていること、日本を、世の中をコントロールできると勘違いしていることを示している。

これが事実なら、私のこれまでのかすかな政府に対する期待もはかなく消えることになる。

もし官僚ではなく、これまでどおり政治サイドの問題であったとしても、いずれにせよファンドはうまくいかない。

すべての官製ファンドはただちに解散せよ。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報

ワールド

米国民の約半数、巨額の貿易赤字を「緊急事態」と認識

ワールド

韓国裁判所、旧統一教会・韓被告の一時釈放認める 健
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story