コラム

消費者はなぜ愚かなのか

2018年06月25日(月)13時54分

ペットボトルの水やお茶を買うのはもっともやる気のない消費者だ? SolStock-iStock.

<不味くて価格もさして安くないペットボトルのお茶や水が日本ではいつまでも売られているのはなぜなのか──消費者に合理的な選択をする気がないからだ>

欧州の環境規制で、ペットボトルというものが今後はなくなる可能性もあるが、現時点で日本のコンビニ、自販機はペットボトル全盛期である。

水やお茶におカネを出す、ということに無限の抵抗感のあった我々の世代も時代に飲み込まれ、炭酸飲料は決して買わないが、水とお茶のペットボトルは高いカネを出して買う。

あんなものに100円前後出しておいて、バーゲンセールをあさるのは愚の骨頂だが、それにもかかわらず(いやだからこそ)、100円もする水やお茶にはえらい不味いものがある。

例えば、ミネラルウォーターでは、大手A社のX水はとびぬけて不味い。お茶なら、これも大手B社のY茶はダントツに不味い。

20年前までは大手C社はお茶が断然不味かったが、やる気がなかったからで、やる気を出してからは、CMにはやる気出しすぎだが、味も競合とそん色ないところまできた。

問題は、前述のX水とY茶である。

味で選択しない消費者

なぜ、不味いのか。

やる気がないから、というわけではなさそうだ。なぜなら、両社は、かなりのテレビCMを打っており、かなりカネは使っているからやる気は一定程度はある。

産業構造の問題、あるいはコンビニや自販機のスロット(置き場の確保)という問題でもない。一昔前は、メーカーと大手流通(卸または小売)が結託して、新規参入を妨害していたということもあったが、いまやコンビニはその正反対で、ポジションを武器にメーカーを締め上げているし、そのコンビニも相互に競争しているし、ドラッグストアの攻勢も激しいから、少し高くても商品力のあるものを置こうとしているし、売上データの詳細さ、スピードはいまや異次元だから、駄目な商品が居座ることは、コネぐらいでは無理である。

となると、結論は消費者の問題である。

消費者が味で購買行動を決めないからである。

ブランドイメージ、商品ブランドイメージ、パッケージイメージで決めてしまう。味は二の次、三の次なのである。

味には無反応なのに、価格にはそれなりに反応する。それも、PBの極端に不味いお茶(コンビニ大手D社のお茶類はとんでもなく不味い)なら、場合によっては30円以上の差があるから、それもわかるが、大手同士だと10円の差であっても安いほうに流れる、ポイントのつくほうに流れる。

この相対的価格差への反応が非合理的だと思うのは、安さを求めるならドラックストアに行って、50円の価格差をとりに行かず、コンビニ店内で10円だけ安いはるかに不味いものを買っているのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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