最新記事

シリーズ日本再発見

電柱を減らせば日本の魅力はさらに増す?

2017年01月30日(月)11時37分
長嶺超輝(ライター)

ngkaki-iStock.

<昨年12月に無電柱化推進法が公布されたが、3500万本以上の電柱が林立する日本はこれで変わるのか。「これだけ多くの電線や電柱が地上に露出しているのは、世界的に見ると奇異」という東京大学の松原隆一郎教授にインタビューした>

【シリーズ】日本の観光がこれで変わる?

 日本の狭い空へと、一斉に突き刺さる電柱や電信柱、複雑に重なり合う電線や電話線。こうした風景を、好んで撮影する外国人観光客もいるにはいる。だが、その姿勢には「極東のハイテク国家の意外な一面」を母国の友人たちに伝えるニュアンスが含まれていそうだ。

 電線などを地中に埋設する「無電柱化」の都市政策は、国際的な趨勢である。すでに無電柱化率100%を達成しているパリやロンドン、シンガポールを筆頭に、ニューヨークは83%、ソウルで46%、北京で34%まで進んでいる。

 日本国内でも、東京都下の国道や都道域に限れば、無電柱化率は35%に達する。しかし、東京23区全体では7%、多摩地域(都下のうち23区と島嶼部を除く地域)で2%。地方に目を向ければ1%に満たない都市も多い(数値はいずれも2014年現在)。

 日本全国に3500万本以上が現在も林立しているという電柱は、はたして日本の残すべき個性か、それとも正すべき恥部か。現東京都知事の小池百合子氏と共著で『無電柱革命――街の景観が一新し、安全性が高まる』(PHP新書)を出版した、東京大学大学院総合文化研究科の松原隆一郎教授に話を聞いた。

――まず、電柱や電線が地上に存在することのデメリットとは?

 3つあります。

 1つ目は「震災対応」です。私も小池さんも、1995年の阪神淡路大震災で被災したのですが、電線に引っ張られて多くの電柱が連鎖的に倒れてしまい、道がふさがれ、救急車や消防車が入れず、救命活動や消火活動が遅れたという実態があります。

 熊本地震でも約400本の電柱が倒れましたし、首都直下地震が起きれば同様の問題が生じることは間違いありません。緊急輸送道路に指定されているのに電柱が立ったままの場所も、まだ多いです。

 2つ目が「交通安全」です。車が電柱にぶつかると、他の衝突事故に比べて乗員の死亡率が10倍に跳ね上がると、国土交通省も発表しています。

 3つ目が「景観の確保」です。日本人の多くはあまり気にしませんが、これだけ多くの電線や電柱が地上に露出しているのは、世界的に見ると奇異な光景です。ただし、直感的に「美しくない街だ」と思わない人々に対して、この点を論じて説得しようとしても仕方がない面があります。

 本の中には書いていないのですが、地上の電線や電柱は一種の「公害」といえます。デメリットが3つも重なっているのですから、いわば産業廃棄物です。電線を地中に埋めれば済むのですが、これには電柱を立てるのと比較して多額のコスト負担を要します。

 つまり、電力会社や電話会社は、経済合理性を優先させて、公共の場所に電柱や電線という"産廃"を放置している状態といえるわけです。

【参考記事】ママチャリが歩道を走る日本は「自転車先進国」になれるか

MAGAZINE

特集:世界があきれる東京五輪

2021年6月15日号(6/ 8発売)

国民の不安の声や専門家の疑念は無視して
「安心・安全」を繰り返す日本を世界はこう見ている

人気ランキング

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    ノーベル賞を受賞した科学者の私が、人生で後悔していること

  • 3

    将来の理数系能力を左右する「幼児期に習得させたい」5つのスキル

  • 4

    EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執す…

  • 5

    歴史に置き去られた世界の廃墟たち...不気味で美しき…

  • 6

    誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に

  • 7

    イギリスがデルタ株の感染再燃で正常化先送りなのに…

  • 8

    デーブ・スペクター「日本は不思議なことに、オウン…

  • 9

    「宿題なし・定期テストなし」でも生徒が勝手に勉強す…

  • 10

    ワクチン副反応、実は若い男性で心筋炎が多発 ファ…

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレッテル

  • 3

    デーブ・スペクター「日本は不思議なことに、オウンゴールで五輪に失敗した」

  • 4

    EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執す…

  • 5

    ビットコインを暴落させたマスクにアノニマスが「宣…

  • 6

    山口香JOC理事「今回の五輪は危険でアンフェア(不公…

  • 7

    武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得…

  • 8

    将来の理数系能力を左右する「幼児期に習得させたい…

  • 9

    ノーベル賞を受賞した科学者の私が、人生で後悔して…

  • 10

    水深6000メートル超の超深海帯で死肉をたいらげる新…

  • 1

    4000回の腕立て伏せを毎日、1年間続けた男...何を目指し、どうなったのか

  • 2

    脳が騙される! 白黒の映像が、目の錯覚でフルカラーに見える不思議な体験

  • 3

    脱・脱日本依存? 韓国自治体が日本の半導体材料メーカー誘致に舵を切っている

  • 4

    国際交流で日本にきた中国人200人に「裏切り者」のレ…

  • 5

    デーブ・スペクター「日本は不思議なことに、オウン…

  • 6

    ホテルで24時間監視、食事はカップ麺の「おもてなし」…

  • 7

    東京オリンピックの前向きな中止を考えよ

  • 8

    閲覧ご注意:ネズミの波がオーストラリアの農地や町…

  • 9

    武漢研究所は長年、危険なコロナウイルスの機能獲得…

  • 10

    捕獲のプロが巨大ニシキヘビに遭遇した意外な現場...…

投資特集 2021年に始める資産形成 英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中