最新記事
シリーズ日本再発見

美人女給は約100年前に現れた──教養としての「夜の銀座史」

2023年04月20日(木)19時55分
小関孝子(跡見学園女子大学観光コミュニティ学部講師)

美人女給を揃えた銀座ナンバーワンの店「カフェー・タイガー」

なつさんが働いていた「カフェー・タイガー」は、いまのカフェとは全く別の飲食業態である。現在に例えるならば、ホステスがいるクラブやラウンジに近い。

「カフェー・タイガー」の開業は1925(大正14)年、場所は今の銀座5丁目、銀座通り沿いの西側である。関東大震災後の銀座では「カフェー・タイガー」が押しも押されもせぬナンバーワンのカフェーであった。

美人女給を揃えて人気を博し、永井荷風や菊池寛など文壇の大御所が通い詰めた。かほるさんというベテラン女給が文藝春秋主催の座談会に参加したこともある。「カフェー・タイガー」の女給たちには一流店で働いているというプライドがあったのだ(『夜の銀座史』p136)。

当時、カフェーで働く女給たちの目標のひとつが、独立して自分の店をもつことだった。そんな流れもあってか、昭和初期になると銀座の路地裏には小さなバーの開業が続いた。内装も外装もデザインに凝り、本格的な洋酒をそろえ、有名カフェーに飽きた銀座人を虜にした。

「ルパン」も開業当初はカフェー業態であったが、1935(昭和10)年に改装され、大きなカウンターを設けてバー業態に変更したそうである。いまでも店の奥には半個室のようなブースがあるが、そこにはカフェー時代の雰囲気が残っている。

カフェーの聖地として「ルパン」を訪れるのであれば、カウンターではなくあえて個室で飲むのも良いだろう。

1930年、メディア界にも空前の女給ブームが到来

1930(昭和5)年になると、銀座の夜の風景に変化があらわれる。銀座1・2丁目に派手なネオン装飾をつけた大規模カフェーが進出し、歓楽街化が進んだのである。「カフェー・タイガー」はたちまち過去の店となり、客も新しいカフェーに吸い寄せられていった。

銀座1・2丁目というと、いまでは世界の高級ジュエリーブランドが並び、歓楽街の面影は感じられない。ネオン街というと銀座6丁目から8丁目が中心である。

ところが戦前は、銀座1・2丁目と銀座3丁目以南では管轄の警察署が異なっていた。銀座1・2丁目を管轄していた北紺屋署は大型カフェーの営業許可がとりやすいとか、そうでないとか、そんな噂がまことしやかに語られていた(『東京朝日新聞』1930年11月26日朝刊p7)。

銀座のネオン街化にあいまって、1930(昭和5)年にはメディア界にも空前の女給ブームが到来した。広津和郎が『婦人公論』に小説『女給』を連載したことをきっかけに、映画業界も巻き込みながら大衆娯楽としての「女給物」が巷にあふれた。

日本は大不況に突入し、儲かるならと各メディアが通俗的な題材に飛びついた。小説や映画の女給に憧れる女性たち、女給から女優に抜擢される女性たち、女給経験を小説にする女性たち、「女給」の消費と再帰の循環がぐるぐると動き出した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:米農産物の購入増やす東南アジア諸国、世界

ワールド

アングル:中国「不正受験ビジネス」が活況、米ではロ

ワールド

アングル:カジノ産業に賭けるスリランカ、統合型リゾ

ワールド

米、パレスチナ指導者アッバス議長にビザ発給せず 国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 5
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中