最新記事
シリーズ日本再発見

肉と麹を合わせる──日本の「こうじ」に世界のシェフが夢中

The New Kale?

2019年03月28日(木)16時25分
リサ・エイベンド

西洋料理のシェフたちは食材としてまた料理の「道具」として、麹のさまざまな活用法を研究中 JONAS KING

<コペンハーゲンの「ノーマ」など世界の有名レストランで、日本の食材「麹」の味と働きが斬新な形で活用され始めた>

ノーマといえば、料理の独創性で世界に知られた超有名レストラン。デンマークの首都コペンハーゲンにある店には発酵の研究部門があり、その責任者ダビド・ジルベールは2、3日おきに研究室に入り、蒸した大麦を発酵させているトレイを点検する。

けば立ったその表面は、冷蔵庫の奥に眠る食品に生えるカビによく似ている。でもジルベールは満足そう。「これが麹(こうじ)、すべてを変えるマジックだ」

日本や東アジアで何千年も前から食品類の発酵に使われてきた麹菌はカビの一種。正式にはアスペルギルス・オリゼーと言い、通常は穀類で培養される。

日本酒の醸造に使われるだけでなく、今や世界語となったウマミ(旨味)を生み出す源が麹。気が付けば西洋料理の世界にも進出していた。

「ノーマでは、麹を味付けに使う」とジルベールは言う。「でも麹がすごいのは、材料であると同時に『道具』でもあることだ。麹が出す酵素はタンパク質を分解するから、自然と肉を軟らかくしてくれる」

ジルベールだけではない。クリエーティブなシェフたちは麹を、日本の料理人が考えもしなかった環境で育てている。

「1300年の間、仏教の影響で日本では動物の肉を食べない習慣があった。だから大豆や小麦などを麹菌で発酵させ、肉代わりのタンパク質として用いてきた」と言うのは、東京・西麻布の名店レフェルヴェソンスの生江史伸。「ノーマが肉と麹を合わせていると聞いて、つくづく感心した」

麹に挑戦しているのはノーマだけではない。米サウスカロライナ州チャールストンのマックレディズでは、味噌ペーストに使う麹を乾燥インゲンで育てている。テキサス州オースティンにあるエマー&ライのケビン・フィンクは、チーズケーキのトッピングに麹のクッキーを砕いて、まぶしている。

スペイン北部のサン・セバスチャンにあるレストラン、ムガリッツのアンドニ・アドゥリスの自慢料理は、麹で作ったライスケーキ(餅)だ。「うちの店は食感にこだわるんだ」とアドゥリスは言う。その濃厚だが軟らかい「麹からできた餅」は、まさしく「フレンチトーストのよう」だとか。

西洋料理の世界では、麹はまだ導入が始まったばかりの素材だ。しかし意欲的なシェフたちは、見つけたばかりの麹の可能性を豊かに開拓していくに違いない。ジルベールは言う。「発酵の世界は奥が深い。油で炒めるよりも(麹を加えるほうが)はるかに可能性がある」

[2017年2月21日号掲載]

※当記事は2017年2月22日にアップした記事の再掲載です。

japan_banner500-season2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:冬季五輪控えたイタリア北部の景観地に観光

ワールド

欧州8カ国に10%追加関税、トランプ氏表明 グリー

ワールド

ベネズエラ、今月初めの米軍による攻撃で兵士47人死

ワールド

EU、重要インフラでの中国製機器の使用を禁止へ=F
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向」語る中、途方に暮れる個人旅行者たち
  • 2
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手がベネズエラ投資に慎重な理由
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 5
    鉛筆やフォークを持てない、1人でトイレにも行けない…
  • 6
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 9
    シャーロット英王女、「カリスマ的な貫禄」を見せつ…
  • 10
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 9
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 10
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中