最新記事
シリーズ日本再発見

精神科医に聞く、日本社会から「寛容さ」が失われている理由

2018年01月24日(水)12時00分
高野智宏

精神科医の視点から不寛容な日本社会に切り込んだ著作を持つ、昭和大学医学部の岩波明教授 Newsweek Japan

<不倫報道をはじめ、このところ、メディアとネット民の双方による過剰なバッシングが目立つ。その背景にある要因を、精神科医である岩波明・昭和大学医学部教授に聞いた>

政治家や著名人の不祥事や失言を糾弾するのがメディアの専売特許だったのは今は昔。インターネットが普及した90年代後半以降、匿名という特性を活かしたネット民による過激な発言は苛烈を極め、数々の炎上騒ぎを巻き起こしている。

そんなメディアとネット民の双方による過剰なバッシングに、日本社会から寛容さが失われていると感じる人も多いのではないか。

なかでも不寛容さが垣間見えるのが、芸能人の不倫報道だ。昨年も大手週刊誌が毎週のように芸能人や著名人の不倫現場をスクープ。今年に入ってからも早速、大物ミュージシャンの不倫疑惑が大々的に報じられ、引退に追い込まれている。

不可解なのは、不倫関係が明らかになった当事者の謝罪会見だ。憔悴した表情で涙ながらに深々と頭を下げ謝罪の意を表するのが慣例だが、本来、謝罪すべき相手は自身や不倫相手の伴侶であり、なんら迷惑を被っていない視聴者や読者ではないはず。

もちろん、芸能人だけに広告に起用した企業や出演番組などの関係者、そしてファンや支持者に向けてのことかもしれないが、果たしてカメラを前に謝る必要があるのか、なぜ人々が他人の不倫をこれほど糾弾するのか、違和感を覚えてしまう。

なぜ日本人はこれほど不寛容なのだろうか。

専門である精神疾患を題材とした多くの著作を持ち、『他人を非難してばかりいる人たち――バッシング・いじめ・ネット私刑』(幻冬舎新書)では精神科医の視点から不寛容な日本社会に切り込んだ、昭和大学医学部の岩波明教授に話を聞いた。

「多民族で構成され、さまざまな価値観と触れ合う欧米諸国と違って、ほぼ単一の民族で構成され、比較的同質的な集団の中で育っていく日本では、思考や価値観が似たものとなり、そこから外れた異質な存在を排除する傾向にあります」

つまり不寛容さは、日本特有の「同質性社会」が大きな原因ということ。学校であれ会社であれ、中心人物の意見を無条件に尊重し、それに合わせた言動が暗黙的に求められる。価値観を共有するその集団の中で異を唱えれば、「空気が読めないヤツ」と排除されてしまうのだ。

しかし、となれば日本人が不寛容なのは、生来の気質と言えるのではないか。

「環境でしょうね。帰国子女の例のように、日本人でも海外で教育を受ければ外国人のような価値観が育まれます。ヨーロッパの小学校では、その多くが1クラス20人程度で、文化や個性を尊重した個別教育が施される。対して日本は約40人とその倍。個人にきめ細かく対応することは不可能であり、結果、同質性を育むような教育にならざるを得ない」

日本の民族構成や教育制度が不寛容さを生む原因というのは納得できる。理解できないのは、時にターゲットの住所や顔写真まで晒してしまう「ネット私刑(リンチ)」を含む、度を越したバッシングだ。岩波教授はそれを「現代人の心の歪みも要因の1つ」と語る。

「自分はこんなに優秀なのに、現実の社会では誰からも認められていない――そんな鬱屈した想いや嫉妬心が折り重なり、ターゲットへの執拗なバッシングという形で発露している面もあるのではないか。また、価値観の同一性により攻撃対象も同一になりやすく、ターゲットへの一斉攻撃となりがちです」

【参考記事】不倫はインフルエンザのようなもの(だから防ぎようがない?)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日本政府、イラン情勢悪化で情報連絡室 「万全な対応

ワールド

米・イスラエルがイラン攻撃、中東は新たな軍事対立に

ワールド

情報BOX:イラン攻撃の影響は、世界石油供給の約4

ワールド

対イラン攻撃、「イラン国民が自らの運命切り開けるよ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「内側」から食い尽くす...カナダの大学が発表
  • 4
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 5
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 6
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKI…
  • 7
    トランプがイランを攻撃する日
  • 8
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 9
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中