最新記事
シリーズ日本再発見

精神科医に聞く、日本社会から「寛容さ」が失われている理由

2018年01月24日(水)12時00分
高野智宏

科学的視点を欠く豊洲問題の感情的反応

そんな不寛容社会・日本を思い起こさせるのは、不倫報道だけではない。同じく昨年多くのメディアが取り上げたのが、東京の築地(中央区)から豊洲(江東区)への市場移転問題だった。

膨れ上がる事業費など多くの問題が浮き彫りになったが、最も耳目を集めたのが移転予定地の土壌・地下水汚染だ。環境基準を超える有害物質が存在し、それらを封じ込めるための盛り土がなされていなかったことが明らかになった。

これにより、多くの市場関係者や都民が豊洲への移転に猛反発。SNSにも怒りの声があふれた。二転三転したあげく、東京都は汚染対策の追加工事に着手し、小池百合子都知事が今年10月の市場移転を決定したものの、市場関係者や都民の不安は完全に拭い去られたとは言いがたい。

しかし、「豊洲の汚染対策は十分になされている」という声もある。

都が設置した専門家会議の平田健生座長は「安全性には問題がない」という見解を示している。また、そもそも豊洲市場では地下水を使用しないため、法律的には飛沫を防止すればよく、地下水の水質を測定する義務もないのである。

加えていえば、築地市場の土壌からも水銀や鉛、ヒ素やフッ素といった基準値を超える有害物質が検出され、しかも都の調査によれば場内には500匹とも2000匹ともいわれる大量のネズミが生息しているという。

豊洲と築地のどちらが安全か。科学者らは「100%の安全」すなわち「ゼロリスク」を追求する風潮に警鐘を鳴らすが、報道の過熱や、反対意見を持つ者を攻撃するネット上の感情的反応にも、科学的な視点を欠いた不寛容さが顔をのぞかせている。

たばこ規制と喫煙者バッシング

不倫報道や豊洲移転問題ほどではないかもしれないが、受動喫煙防止対策を端緒とする喫煙者へのバッシングも不寛容さを感じる一件だ。

厚生労働省による対策案は、焦点となっている飲食店については店舗面積30平方メートル以下のスナックやバーを除いて原則禁煙(喫煙室の設置は可)というもの。喫煙可の店舗面積を150平方メートルに拡大する案も検討されているようだが、いずれにせよ経営に大打撃になるとして外食産業団体などが反対し、議論になってきた。

東京都でも昨年10月、家庭内や自動車内での喫煙を規制する「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」が議会で可決され、今年4月からの施行が決定。さらに、都は独自で厚労省より厳しい条例の導入も検討している。また、政府はたばこ税増税の方針を固めており、愛煙家には規制と増税のダブルパンチが迫っているのだ。

こうした動きに、嫌煙派のネット民は大喝采。関連する掲示板には喫煙者の人格すら否定するような不寛容なコメントがあふれ返っている。

しかし、2002年からは路上喫煙規制といった欧米にはない日本独自の規制が施行され、飲食店でも分煙設備が普及しつつあるなど、喫煙者と非喫煙者の「共生」に向けた取り組みが行われてきたことも事実。行き過ぎた規制ではないかという反対の声も出てきており、昨年12月には「たばこはそんなに悪いんですか?2017」という緊急シンポジウムも東京で開催された。

【参考記事】日本から喫煙できる飲食店がなくなる――かもしれない?

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

金現物が一時2%高、米イスラエルのイラン攻撃で

ワールド

アングル:FRB次期議長指名手続きが異例の遅れ、高

ワールド

イランによる先制攻撃の兆候なかった、米国防総省が議

ビジネス

焦点:中東戦争、市場は想定以上の混乱覚悟 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報復攻撃、民間インフラも対象に
  • 4
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 5
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 6
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 7
    【銘柄】「三菱重工業」の株価上昇はどこまで続く...…
  • 8
    【銘柄】「ファナック」は新時代の主役か...フィジカ…
  • 9
    「高市大勝」に中国人が見せた意外な反応
  • 10
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中