最新記事
シリーズ日本再発見

日本に定住した日系ブラジル人たちはいま何を思うのか

2017年11月20日(月)18時14分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

写真はイメージです。 AH86-iStock.

<バブル期の入国管理法改正により日系ブラジル人が多く日本に移り住み、群馬県大泉町は「日本一ブラジル人率の高い町」になった。あれから四半世紀が過ぎ、移民受け入れが議論される日本で、彼らはどう生きているのか>

小倉(現姓・高野)祥子さんは、1958年、13歳のときに家族とブラジルに渡った。突然「ドミニカに行きたい」と切り出した兄に、母親が「一人で行かせるわけにはいかない」と言い、熟慮を重ねた父親が「家族全員で行けるブラジルにしよう」と決断したのだという。

2カ月の船旅(5歳下の妹は泣き通しだった)の末にブラジルに着くと、「まるで奴隷が売り買いされるよう」にして雇用主と面接。実際、厳しい環境で働かざるを得ない家族も多かったらしいが、一家は幸いにして地元の裕福な名士に雇われ、十分すぎる待遇を受けたという。

おかげで学生生活を謳歌できたという祥子さんは、高校卒業後、日本で大学を卒業してからブラジルに渡っていた高野光雄さんと結婚する。4人の子どもに恵まれ、全員に満足のいく教育を受けさせるために、高野さんは何度も転職をくり返した。

移住から30年あまりが過ぎた1989年――。

夫妻は、バブル景気の日本に2年間だけの「出稼ぎ」に行くことを決める。群馬県邑楽郡大泉町で働きながら、日本全国を旅しても回った。2年がたち、2人はブラジルに帰国。日本はあくまでも「旅先」であり、再びブラジルで暮らすことに躊躇はなかったそうだ。だが、高野さんが勤めていた会社からの強い要請を受けて、夫妻は再び日本に戻ることを決意。

そのとき祥子さんは、以前のような工場勤務ではなく、日系人のための日本語教室を始めた。ブラジルでは高学歴だった日系人たちが、言葉の問題で叱責されたり冷遇されたりする姿が忘れられなかったからだという。

一方、幼い頃に日本にやって来た子供は、どんどん日本語を習得し、ポルトガル語を忘れてしまう。すると、日本語を話せない両親とのコミュニケーションも難しくなる。そこで今度は、日系人の子供たちのためのポルトガル語教室も開設した。

「日本一ブラジル人率の高い町」になった理由

2017年6月末の法務省統計で、日本に住む外国人は過去最高の約247万人。ヨーロッパを中心に移民・難民が深刻な国際問題となるなか、日本は移民に対して門戸を閉ざしたままだ、と指摘されている。だが実際には、(まだまだ足りないとはいえ)既に多くの外国人が日本で暮らしている。

国別で見ると、圧倒的に多い中国に続いて2位は韓国で、フィリピンとベトナムがそれに続く。そして、5番目に多いのがブラジルから来た人々だ。急増しているベトナムに抜かれはしたものの、先の統計によると、現在18万5967人が日本で暮らしている。

ジャーナリストの水野龍哉氏による『移民の詩――大泉ブラジルタウン物語』(CCCメディアハウス)は、そんな日本に暮らすブラジル人たちを丹念に取材し、彼らのたくましい生き様と、地域住民との交流を描いたノンフィクションだ。

舞台は、冒頭の祥子さんも暮らす群馬県の大泉町。県南東部に位置する人口約4万人のこの小さな町は、全国で最も外国人比率が高い自治体の1つとして知られている。町民の15%が外国人で、その約7割が日系を中心としたブラジル人。町民の10人に1人がブラジル人という、「日本一ブラジル人率の高い町」なのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中