コラム

戦前は「朝鮮人好き」だった日本が「嫌韓」になった理由

2019年10月09日(水)18時10分


 最近のマスメディアは、韓国がいかに「反日的」であるかを報じ続けている。こちらが相手を憎んでいるのではなく相手がこちらを憎んでいるのだというフレームを用いることで、集団間の葛藤の責任を全て相手に転嫁しながら、視聴者の感情をかき立てている。
 日本に対して好意的でない韓国人のみに注目し、「セレクティブエネミー」を用いることは、日本人が持つ排外主義にお墨付きを与え、ヘイトクライム(偏見に基づく犯罪)にすらつながりかねない。偏見や敵意は社会的に学習される。メディアはこれまで以上に、自らの「製造者責任」を問わなくてはならない。

続く2本目の記事「日本に巣食う『嫌韓』の正体」では、ノンフィクションライター・石戸諭氏が「韓国嫌い」を醸成するメディアの責任を問う。週刊ポストに限らず、ワイドショーや雑誌が嫌韓報道を繰り返す背景には何があるのか。

石戸氏は強い影響力を持つヤフーニュースのコメント欄に注目し、さらには、戦後の貧しかった頃の韓国を知る「上から目線」の世代と、経済成長した韓国しか知らない新しい世代が「ふわっとした嫌韓」を共有する理由にも踏み込んでいく(ウェブ版はこちら)。

3本目の「そして保守はいなくなった」では文筆家の古谷経衡氏が、「嫌韓」が世代を超えて広がる現象を「ネット右翼と保守の合体」という視点から浮かび上がらせる。旧来の保守は当初、2002年のサッカーワールドカップの頃に誕生したネット右翼とは分離していたが、それが同じように「嫌韓」を叫ぶ存在になってしまったのはなぜなのか。

古谷氏によれば、両者をブリッジさせたのは「動画」だ。その結果、保守の「古老」たちは「有頂天」になり、「差別を区別と言い直して、根拠のあるなしにかかわらず、嫌韓の渦の中に合流していった」――。保守の論客である古谷氏から「自称保守」たちへの痛烈な批判が、「嫌韓」現象の中核を斬る(ウェブ版はこちら)。

――本誌・小暮聡子、森田優介

20191015issue_cover200.jpg
※10月15日号(10月8日発売)は、「嫌韓の心理学」特集。日本で「嫌韓(けんかん)」がよりありふれた光景になりつつあるが、なぜ、いつから、どんな人が韓国を嫌いになったのか? 「韓国ヘイト」を叫ぶ人たちの心の中を、社会心理学とメディア空間の両面から解き明かそうと試みました。執筆:荻上チキ・高 史明/石戸 諭/古谷経衡

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story