コラム

遅れてきたバンド、遅れてきたギタリスト

2013年11月23日(土)21時07分

 ザ・ポリスのギタリスト、アンディ・サマーズは遅れてきたギタリストだ。生まれは1942年、45年生まれのエリック・クラプトンや43年生まれのキース・リチャーズよりも実は年上なのに、ポリスとして売れたのはアルバム『アウトランドス・ダムール』が出た78年、36歳の年だった。

 当時スティングは27歳、ドラムのスチュアート・コープランド25歳。平均年齢29・3歳は決して若くない。ところが当時隆盛を極めたパンク・ムーブメントを利用することで売れようとしたこの異色のバンドは、その後レゲエの要素を取り入れ大ブレイク。最大のヒット曲『見つめていたい』は、BBCによれば1曲で1350万ポンド(約22億円)を稼ぎ出し、「最も稼いだ曲」ランキングの8位に入るほど売れた(ちなみにビートルズの『イエスタデイ』が1950万ポンド〔約32億円〕で4位)。

 60年代から70年代にかけて世界を席巻したロックムーブメントに乗り遅れたが故に、80年代前半を象徴する存在になったバンド、ポリスの栄光の歴史と内幕を描いたドキュメンタリー映画『ポリス/サヴァイヴィング・ザ・ポリス』が11月23日から、日本で公開されている。

 ベースになっているのは、サマーズの自伝『ポリス全調書』(スペースシャワーネットワーク)。ほかのメンバーよりひと回り年長なことと、恐らくは持って生まれた性格ゆえ、なのだろう。サマーズはギタリストという人種では珍しい「調整型」「気使い型」の人だ。どこか冷めた視点で、バンドに突然当たったスポットライトのきらめきとやがて消えゆくはかない熱狂を淡々とつづる自伝のよさは、この『サヴァイヴィング・ザ・ポリス』でもうまく再現されている。

 スティングの傑出した才能ゆえ、バンドは84年のグラミー賞を総なめにしたアルバム『シンクロニシティー』を最後に空中分解するのだが、このアルバムの段階で、既に3人がそれぞれスタジオの別の部屋で録音するほど不仲だったこともサマーズは淡々と振り返っている。ご多分にもれず、乱痴気騒ぎとドラッグでサマーズも身を持ち崩し、彼を深く理解する妻から三行半を突きつけられる。ただ、彼はその後自分を取り戻して妻と復縁し、家族を取り戻す。突き抜けたいのに、どこか突き抜けられない。その音楽性を象徴するサマーズの人生のエピソードも、映画では語られている。

 MTVが全盛期を迎えた80年代初めは、ベトナム戦争の終結と共に政治の季節が終わり、反逆の象徴だったロック音楽が一気に商業化を迎えた時代だった。MTVはその牽引役で、ポリスもほかならぬMTVによって世界に広く知られるようになったバンドの1つだ。ただ一方でどこか昔の香りを残したこの3人編成のグループは、ロックの1つの時代の終わりに咲いた「あだ花」だったのかもしれない。

 サマーズと日本ファンとの思いがけない交流の様子や、人気だった音楽番組「ベストヒットUSA」に出演した際の(ちょっと笑える)シーンも映画では見ることができる。個人的に驚きだったのは、カメラマンとしての彼のもう1つの顔だ。音楽で煮詰まった気分を切り替えるために始めたらしいが、その作品は素人のレベルをはるかに超えている。サマーズの公式サイトに作品の一部があるので、興味のある人はぜひ一度見てほしい。彼特有の「どこか冷めた視点」が、ある意味その音楽以上に表現されている。

――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story