コラム

反日デモの知られざるメカニズム

2010年10月26日(火)12時02分

 先週の初めにいったん鎮静化した中国の反日デモが週末にまた再発した。朝日新聞の敏腕北京特派員、峯村記者による「反日デモ、中国当局が承認」(22日付朝刊)「反日デモ阻止、内部通達」(25日付夕刊)と一見前後で矛盾するような報道もあったから、中には「何が一体どうなっているの?」と、混乱した人もいるかもしれない。
 
 だが反日デモがいったん鎮静化してまた再発したメカニズムには、実はそれほど矛盾も混乱もない(中国政府は混乱しただろうが)。

 中国人ジャーナリストでブロガーの安替氏が先日、東京で講演会を開いた。その中で、南京生まれである安替が興味深いことを言っていた。曰く、「ネットで情報を得るまでは、世の中のすべての悪いことは日本が起こしていると思っていた」「だから、中国では放っておけば毎日どこかの都市で反日デモが起きる」

 安替氏によれば、中国では「デモがないのが正常、あるのは不正常」だ。つまりデモが起きる背景には当局の何らかの意思が働いている。また今回のデモは北京、上海、広州といった中国を代表する大都市でなく、成都や武漢、鄭州といった中規模の内陸都市で起きた。これらの都市には「市民意識がそれほど高くなく、かつ情報インフラも不足している」(安替氏)という事情も共通する。要するに、これらの都市はまだまだ日本に対する単純な悪意が育ちやすい状況にあるわけだ。

 北京、上海など大都市ではデモを封じ込めたが、内陸の地方都市は「黙認」した――その理由は、ちょうど最初のデモが起きた16日から18日にかけて、共産党の重要会議である「5中全会」が開かれていたことと無関係でないだろう。会議の最大の課題は習近平・国家副主席が中央軍事委員会副主席という次期トップの登竜門ポストに就けるかどうか、だった。ちなみに会議の前には「今回も習氏は軍事委副主席になれない」という情報が飛び交っていた。

 峯村記者の記事によれば、中央政府の公安当局は最初のデモの翌日の17日には「デモが違法行為に当たる」と内部通達を出したという。先々週の週末から先週の初めにかけて、一部の地方政府が出した「ゴーサイン」に対し中央政府はいったん「ブレーキ」を踏んだが、先週末に当局の網からこぼれたいくつかの中規模都市でデモが再発した、という流れなのだろう。

 最初は政治闘争に利用していた大衆運動がそのうち制御不能になって、最後は運動の参加者が「全員追放」された......毛沢東が文化大革命で犯した過ちだ。大衆運動の政治利用という火遊びの怖さを十分知っているからこそ、中国政府は早々にブレーキを踏んだ。とすれば、反日デモはとりあえずいったんこれで収束することになる。

 まさか21世紀の現在、「下放」というカオスが再現するとは思えないが。

――編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

ニュース速報

ワールド

中国、3月の全人代延期案を2月24日に討議 政協も

ワールド

マカオ、今月20日からカジノ営業再開へ

ビジネス

ソフトバンクG出資のOYO、19年3月通期は損失6

ビジネス

香港キャセイ航空、上期大幅減益を予想 新型肺炎によ

MAGAZINE

特集:新型肺炎 どこまで広がるのか

2020-2・18号(2/11発売)

感染者数がSARSを超えた新型コロナウイルス── 「起きるべくして起きた」中国発の感染症を止める処方箋

人気ランキング

  • 1

    韓国、キャッシュレス完了した国が進める「コインレス社会」

  • 2

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、悪いのは中国人の「ゲテモノ食い」ではない

  • 3

    新型コロナウイルス、人口2.6億のインドネシアで感染者ゼロの怪

  • 4

    インドネシア、巨大ヘビから妻救出した夫、ブタ丸呑み…

  • 5

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 6

    中国の新型コロナウイルス危機は「チェルノブイリ級…

  • 7

    マクロンも羨む日本の定年引き上げ、フランスで「70…

  • 8

    新型コロナウイルス、初の死者で「信認低下」懸念 …

  • 9

    「10歳の娘が裸でも同じベッドで寝る彼氏」これって…

  • 10

    マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

  • 1

    BTSと共演した韓国人気子役がYouTubeで炎上 虐待されたのは猫か少女か?

  • 2

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、悪いのは中国人の「ゲテモノ食い」ではない

  • 3

    韓国と中国の関係に影を落としはじめた新型コロナウイルス

  • 4

    マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

  • 5

    今年の春節は史上最悪、でも新型肺炎で「転じて福」…

  • 6

    中国の新型コロナウイルス危機は「チェルノブイリ級…

  • 7

    「歯肉から毛が生えた」という女性の症例が世界で初…

  • 8

    「10歳の娘が裸でも同じベッドで寝る彼氏」これって…

  • 9

    韓国、キャッシュレス完了した国が進める「コインレ…

  • 10

    新型肺炎:1人の医師の死が引き起こす中国政治の地…

  • 1

    ゴーン逃亡のレバノンが無政府状態に、銀行も襲撃される

  • 2

    「歯肉から毛が生えた」という女性の症例が世界で初めて報告される

  • 3

    一党支配揺るがすか? 「武漢市長の会見」に中国庶民の怒り沸騰

  • 4

    ヒヒにさらわれ子どもにされた子ライオンの悲劇

  • 5

    マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

  • 6

    韓国で強まる、日本の放射能汚染への懸念

  • 7

    新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、…

  • 8

    訪韓日本人数が訪日韓国人数を上回った ......その内…

  • 9

    「武漢はこの世の終末」 チャーター機乗れなかった米…

  • 10

    「拷問死したアメリカ人学生」がはばむ文在寅の五輪…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!