コラム

イラン石打ち刑と『龍馬伝』の以蔵

2010年07月09日(金)11時30分

 7月8日、WEB独占記事「残虐『石打ち死刑』目前のイラン女性」をアップすると決めたとき、なぜか大河ドラマ『龍馬伝』の以蔵を思い出した。土佐藩の政治家・吉田東洋を暗殺した首謀者を明かすよう強要され、むち打ちなどで延々と拷問される「人斬り以蔵」こと岡田以蔵だ。師と仰ぐ武市半平太のせいでこんな目に遭うのかと思うと、ふびんでならない。

 状況はまったく異なるが、イランで姦通罪で有罪となった女性サキネ・モハマディ・アシュティアニ(43)にも同情を禁じ得ない。彼女は既に99回のむち打ちの刑を受けた。さらに石打ちによる死刑が宣告され、自白は強要されたものだとして控訴したが、認められなかった。政府が国際世論に屈しない限り、彼女は近日中にも土に胸まで埋められ、石を投げつけられて処刑されるという。

 国によって価値観や法制度が異なるのは当然とはいえ、石打ち刑の残虐性には慄然とする。あえて即死させず、なぶり殺しにするというのだから。しかも英ガーディアン紙によると、イランの裁判官は確たる証拠がなくても死刑判決を出すことができるという。21世紀のイランは江戸時代の土佐藩と同じレベルなのか(土佐藩には裁判制度はなかったかもしれないが、制度があればいいというわけではない)。

 以蔵は確かにかわいそうだが、それでも1世紀以上も昔の人だ。イランのアシュティアニは、2010年の今、不確かな罪のために身の毛もよだつ残虐な刑に直面している。

追記:その後の報道によると、イラン当局はアシュティアニに石打ち刑が執行されることはないと発表した。だが人権擁護団体などは、絞首刑による死刑の可能性は残っているとして警戒している(7月11日記)。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事を読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏のミサイル防衛システムへの関与で調査要請=

ビジネス

丸紅、自社株買いを拡大 上限700億円・期間は26

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story