コラム

『幸福の黄色いハンカチ』リメークの評判

2010年03月14日(日)11時00分


 先日タイム誌のウェブサイトを見ていたら、トップページに映画『イエロー・ハンカチーフ』を紹介する見出しが踊っていた。『幸福の黄色いハンカチ』のリメークがハリウッドで作られたことは知っていたが、トップページで紹介されるほどいいってこと?
  
 脚本不足に悩むハリウッドでは、外国映画のリメークが盛んに行われている。日本映画も『呪怨』『仄暗い水の底から』などのホラー映画から、『Shall We ダンス?』までいくつかの作品がハリウッドで作られている(リチャード・ギア主演の『ハチ公物語』のリメークはほとんど無視されていたが)。

 そして今回の『イエロー・ハンカチーフ』。正直あまり関心を払っていなかったが、にわかに興味がわいてきたので、アメリカのメディアがどう評価しているかをチェックしてみた(アメリカでは2月26日に限定公開、日本では6月26日公開予定)。

 ロサンゼルス・タイムズやサンフランシスコ・クロニクルを除き、山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』がベースになっていることに触れている記事はほとんどない。日本の映画のリメークだと気付く人は少なそうだ。実は『幸福の黄色いハンカチ』の原作は、アメリカのフォークソングに触発されてピート・ハミルが書いた短編。アメリカの短編が日本で映画になり、それがまたアメリカに渡ったことになる。

 高倉健の役を演じるのはウィリアム・ハート。賠償千枝子が演じた妻役にマリア・ベロ。若手のクリステン・スチュワート(桃井かおり)とエディ・レッドメイン(武田鉄矢)が脇を固める。大手メディアが作品を紹介したのは、『トワイライト』シリーズで人気者になったクリステン・スチュワートが出演しているから、というのが真相らしい(『イエローハンカチーフ』は『トワイライト』より前に撮影されている)。

 とはいえ、作品に対する評価もそれなりに高いといえそうだ。とりわけウィリアム・ハートの演技が絶賛されている。「ハートは役を巧みに操り、俗っぽいストーリーを輝かせている」(ニューヨーク・オブザーバー)、「見る者を静かに圧倒する。寡黙でいながらスクリーンを支配する名演」(サンフランシスコ・クロニクル)、「表情をほとんど変えずに感情を表現している。気持ちを代弁するのは彼の目だ」(クリスチャン・サイエンスモニター、まるで健さんそのもの?)。

 一方ニューヨーク・タイムズによれば、ハートと役柄は不釣り合い。「たとえ南部のしゃべり方を真似てみても、ハートが演じるブレットはどこか洗練されていて、本物の労働者には見えない。ブレットのDNAはハートに備わっていない」と手厳しい(アメリカ先住民の血筋を引く役を演じたエディ・レッドメインがイギリス人俳優であることも許せないらしい)。

 もっとも、厳しい評価はニューヨーク・タイムズくらい。トップページで紹介したタイム誌は「不自然な設定や地域色に頼り過ぎる点など、小作品の欠点を備えている。それでもこの作品が持つ不思議な空気に夢中にならずにいられない」と書く。「とても愛すべき登場人物たちがどうなるのか、観客は見守りたくなる」(ロサンゼルス・タイムズ)。

 残念ながら、高評価はヒットに結びついていない。7館で限定公開された最初の週末の興行収入は3万7000ドルだった。それでも日本映画のリメークがアメリカで批評家の目にとまった、というのはうれしい。まだ作品を見ていないので個人的評価はできないけれど。

 ニューヨーク・オブザーバーはこう締めくくっている。「ハンカチがたなびくラストではティッシュは忘れずに」。ラストシーンの感動は、日米ともに変わらないようだ。

──編集部:小泉淳子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベセント長官、NEC委員長兼務も トランプ氏側近ら

ビジネス

マイクロン、コンシューマー事業から撤退 データセン

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、もみ合い後5万円回復 米

ビジネス

デルタ航空、政府機関閉鎖の減便が2億ドルの減益要因
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story