コラム

欧州超特急のナポレオン的過ち

2010年03月01日(月)21時00分

 海底を通るトンネルでドーバー海峡を横断し、最高時速300キロでロンドンとパリ、そしてブリュッセルを結ぶユーロスター。個人的に何度も利用したこともあって、いろいろと思い出深い電車だ。

 この電車、07年に変更されるまでロンドン側のターミナル駅はウォータールー駅だった。これをフランス語読みするとワーテルロー、つまりフランスの英雄ナポレオンがイギリスなど連合軍に敗れた戦場の名前となる。イギリスに来るフランス人は、ユーロスターを降りるたびに不快な気持ちにさせられるという実に嫌味な趣向に、はじめてそのことを知ったときには「これがヨーロッパ!」と、なぜかうれしくなったものだ。

 そんなユーロスターの名前を、ヨーロッパを離れてから久々に聞いたのが、昨年末から立て続けに発生している故障による立ち往生のニュースだった。12月には海峡トンネル内で列車が停止して2000人以上が閉じ込められ、1月にも同様の事故が起きていた。

 さらに2月21日、乗客約740人以上を乗せたユーロスターは、夜の11時にイギリス国内アシュフォード近郊で「技術的問題」によって停止。非常灯も15分ほどで消えたために真っ暗になった車内で乗客は2時間も待たされたという。さらに自分で荷物を抱えたまま、はしごで線路に下ろされ、代わりの電車に乗り換えてロンドンに到着したときには午前2時30分になっていた。

 今回の故障の原因はまだ調査中とされているが、昨年のものについては、寒波と大雪に見舞われた外気と、トンネル内の暖かい空気の温度変化による電気系統のトラブルが原因だったと2月13日に調査結果を発表。メンテナンスの不備に加え、故障に対する対応のまずさから雪対策ができないまま「ぶっつけ本番」で冬を迎えたのではと疑われるなど、運行計画にも非難が集まっているところだった。

 そもそも冬は寒くて、雪だって降るものだ。それなのに、その準備さえしっかりできていなかったうえに、同じようなトラブルを繰り返すとは......。

 ロンドンのターミナル駅が現在のセント・パンクラス駅に変更されたときには、ナポレオンが群集に「ワーテルローを忘れよ!」と叫ぶポスターが掲げられたユーロスター。だが、やはりナポレオンを敗走させた「冬将軍」のことは、まだ忘れるわけにはいかないようだ。

――編集部・藤田岳人

このブログの他の記事も読む

プロフィール

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価

ビジネス

〔マクロスコープ〕迫るタイムリミット? ソフトバン

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story