コラム

反政府軍の中核、HTS指導者が言う「全シリア人」には誰が含まれている? アサド政権崩壊を単純に祝福できない理由

2024年12月10日(火)21時40分

HTSはアルカイダ分派としてイスラーム国家建設を唱導し、欧米的民主主義を嫌悪してきた。いまさら選挙に向かうかは疑問だし、アル・ジュラニの勝利宣言でも選挙実施については触れられなかった。しかし、仮に選挙が行われても、宗派対立がかえって鮮明になりかねない。

クルド人は「シリア人」か

シリア分裂をさらに加速しかねないのがクルド人問題だ。


クルド人は「国をもたない世界最大の少数民族」と呼ばれ、トルコ、シリア、イラク、イランなどに暮らしているが、どの国でも分離独立運動はおさえ込まれてきた。

シリアのクルド人勢力は内戦が激化した2011年頃からアサド政権だけでなく、アルカイダやISとも衝突を繰り返し、「シリア民主軍(SDF)として」アメリカなどから支援を受けた。

ところが、これを警戒したのがNATO加盟国でもあるトルコだった。トルコ政府はクルド人勢力の活発化が国内に飛び火するのを恐れ、トルコ軍を派遣しただけでなく、アラブ系民兵「シリア国民軍(SNA)」を編成してクルド人勢力への攻撃を続けた。

こうして各方面と戦いながらSDFはシリア北東部一帯を実効支配してきたのだが、HTS率いる反政府軍がダマスカスを目指して進撃していた12月3日、東部デリゾールを制圧した。これはHTSの側面支援というより、勢力圏拡張を目指したとみた方がよい。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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