コラム

極右政権になったらどうなる? 知っておきたいフランス大統領選の基礎知識5選

2022年04月22日(金)17時05分

国民戦線時代から、その党首はこれまでに二度(2002年、2017年)、大統領選挙の決選投票に進んでいて、今回が3回目の挑戦となる。マリーヌ自身が決選投票に進むのは2017年選挙に続く2回目で、この時もマクロンとの一騎打ちだった。

今回の第一回投票でのルペンの得票率は2017年選挙第一回投票での21.3%を上回っており、このことからも極右大統領が誕生するかに注目が集まっているのだ。

なぜ極右が勢力を広げたか

ルペン率いる国民連合はなぜ大きな勢力になったのか。そこには大きく3つの理由がある。

*France24極右

第一に、1970~80年代にいち早く、移民に反感を抱く人々を「票田」として掘り当てたことだ。当時、多くの企業は安い労働力として外国人を雇用していたこともあって、ほとんどの政党は移民受け入れを当然と捉え、選挙の争点にすらなっていなかった。

ところが、この頃すでに中・低所得層の間には、移民の流入による文化摩擦、福祉など財政負担、雇用での競争といった不満が広がり始めていた。ほとんどの政党が無視していたこの問題を争点としてピックアップしたことで、国民連合は既存政党に飽きたらない有権者の支持を集めることに成功したのだ。

第二に、イスラーム過激派に対する警戒感の高まりだ。フランスはヨーロッパのなかでイスラーム過激派の活動が最も目立つ国の一つだ。2015年にはパリで二度、大きなテロ事件が発生し、数多くの犠牲者を出した。

テロに対する警戒感はムスリムなどへの不信感も高めており、これも「反移民」を掲げる国民連合に多くの有権者が引き寄せられる原動力になっている。

そして第三に、グローバル化への不満の増幅だ。格差の拡大による中間層の先細りはどの国でも見られるが、フランスもその例外ではない。とりわけ若い世代にそれは深刻で、世界銀行の統計によると2019年のフランスの失業率は平均8.4%で、これ自体先進国中で屈指の高さだが、同年の若年層(15-24歳)のそれは19.5%にのぼった。

もともと主流としての意識を強くもっていた白人中間層が没落した時、不満が「自由競争のなかで経済機会をつかむマイノリティ」への敵意になることは、世界恐慌後のドイツでナチスが台頭したり、2016年アメリカ大統領選挙でトランプが当選したりした時と基本的に同じである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 5
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 6
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story