コラム

極右政権になったらどうなる? 知っておきたいフランス大統領選の基礎知識5選

2022年04月22日(金)17時05分

決選投票を前にTV討論に臨むマクロンとルペン(2022年4月20日) Christian Hartmann-REUTERS

<現職マクロンは「この選挙はヨーロッパにとっての国民投票だ」と述べ、ルペンは「国内のフランス人が第一だ」とマクロンを批判。米大統領選との違い、極右拡大の理由、決選投票の争点とは?>

フランス大統領選挙で極右政党「国民連合」党首ルペン候補の勢いが目立つことは、今後のヨーロッパ全体に大きな影響を及ぼすインパクトを秘めている。以下では、4月26日に投開票を迎えるフランス大統領選挙の基礎知識をまとめる。

アメリカ大統領選挙と何が違うか

フランスの大統領の任期は5年で、アメリカより1年長い。それ以外に、大統領選挙でもフランスにはアメリカのものといくつかの点で違いがある。

第一に、大統領選挙の参加者が多いことだ。アメリカでは二大政党からそれぞれの候補が出てくるため、基本的に二人しか選択の余地がない。

しかし、二大政党制は英語圏以外ではあまり一般的でない。そのため、フランスの大統領選挙でも三人以上の候補が出ることが多い。ちなみに今回の場合、12人が立候補している。

第二に、投票の回数が多いことだ。アメリカでは有権者の投票機会は一回だけだが、フランスでは第一回投票の得票数で上位2名が決選投票に進むため、有権者は二回投票することになる。

これは投票を慎重に行うためであると同時に、確実に有権者の過半数によって支持される候補を大統領にするための仕組みでもある。

そのため、4月10日に行われた今回の第一回投票では現職のマクロン候補が27.8%の得票率で1位通過したが、これに次ぐ23.1%で2位通過したルペン候補に、26日の決選投票で逆転される可能性もあるわけだ。

2位通過したルペンとは

この決選投票はヨーロッパ中からの関心の的だ。その関心は、フランス初の女性大統領が誕生するかどうかもさりながら、フランス初の極右大統領が誕生するかどうかに集中している。第一回投票を2位通過したマリーヌ・ルペンは極右政党「国民連合」の党首だからだ。

国民連合は1972年に発足した「国民戦線」にルーツをもち、ヨーロッパ極右政党の草分けともいえる。その最大の特徴は「反移民」の主張にあり、「フランスらしさを損なう」外国人、外国文化の流入に敵意を隠さないことだ。

さらに、国家の独立を尊重する立場から、加盟国にさまざまなルールを課してくるEUにも反感を隠さず、イギリスのEU離脱を賞賛してきた。

国民戦線は地方選挙を入り口に徐々に党勢を拡大させ、1986年には初めて国民会議(国会にあたる)に議席を獲得した。2010年に初代党首ジャン=マリー・ルペンが引退すると、三女マリーヌがその座を引き継ぎ、党名を現在の国民連合に改称した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国

ビジネス

3月過去最大の資金流入、中国本土から香港・マカオ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story