コラム

「西側に取られるなら不毛の地にした方がマシ」ロシアの核使用を警戒すべき3つの理由

2022年03月24日(木)21時45分

冷戦時代に米ソ間で生まれた核抑止とは、「核の先制攻撃を行なえば必ず核の報復を受けるから、核を使用しないことがお互いの利益になる」という考え方に基づく。この「核不使用のバランス」は、二大陣営がほぼ互角の核兵力を持っていたから成り立っていた。

ところが、ウクライナはNATO加盟国ではない。だから、仮にウクライナが核攻撃を受けても、アメリカには報復しなければならない義務はない。アメリカにしても、ウクライナのためにロシアと核ミサイルを撃ち合うつもりまではない。

つまり、ロシアはウクライナで核兵器を使用しても、核の報復を恐れなくてよい。ウクライナがいわば核抑止のスキマにあることは、ロシアの心理的ハードルをさらに引き下げる一因といえる。

「ただの脅し」とみなすリスク

念のために繰り返せば、いくらプーチンでも核兵器を用いる可能性は決して高くない。ただし、その恐れは着実に増してもいる。

*DW動画

そして、外部からそのようにみられていることも、ロシア政府は承知しているだろう。だとすると、「何をするかわからない」と思われること自体、ロシアにとっては外交的な手段となる。

いわば「状況次第では本当に撃つぞ」という威嚇だが、「ただの脅し」とみなされているとロシア政府が感じれば、むしろ本当に撃つリスクも高まる。それくらい今のプーチン政権には、大胆さというより神経過敏の兆候がうかがえる。

先進各国はプーチン政権の本気度を予断なく見極めながら、制裁を強化する一方でウクライナの交渉を支援し、核使用という最悪の事態を回避する必要があるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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