コラム

今年のクリスマスケーキは例年より小さい? 世界的な食品値上がりで笑う国

2021年12月24日(金)15時10分

プーチン大統領のもと、ロシアは食糧を天然ガスと並ぶ戦略物資と位置づけ、生産量を増やすとともに販路も拡大させてきた。2010年代半ばに世界一の小麦生産国となったロシアは、国内向けより安い価格で輸出しているとみられ、中国などアジアだけでなく、中東、中南米、アフリカなどにも顧客を抱える。

mutsuji211224_xmas2.jpg

このロシアにとって世界的な食品値上がりはむしろ追い風だ。もっとも、ロシアは食品価格の値上がりに乗じて輸出を増やすよりむしろ、輸出を制限することで食品価格をさらに押し上げてきた。

実際、「巣ごもり需要」などもあって世界全体で食糧価格が高騰し始めた昨年7月、ロシアは「国内需要を賄うため」、小麦輸出を前年の約1/5にあたる700万トンまでに制限する措置を発表した。

さらに今年10月末、ロシア政府は気候変動の影響を理由に、来年の穀物の作付けが当初見込みの1億2740万トンより少ない1億2300万トンになると発表し、さらに11月には窒素やリン酸といった肥料の輸出を6ヵ月間停止する方針を打ち出した。これもやはり「国内需要の高まり」が理由だった。「国内需要」といわれれば、他の国は文句をいえない。

ロシアはこれまで、外交関係の悪化したウクライナやヨーロッパ向けの天然ガス輸出を突然打ち切るなど、エネルギーをテコに外交的な影響力を強めてきた。英紙フィナンシャル・タイムズは食糧輸出をテコに国際的な影響力を増すロシアの方針を「小麦外交」と呼び、その影響力の拡大に警戒心を隠さない。

これまでのところ、エネルギーの場合と異なり、ロシアが関係が悪くなった特定の国にピンポイントで食糧の輸出を制限したわけではない。とはいえ、食糧の大生産国ロシアの輸出制限が、少なくとも結果的には国際的な食品価格をさらに押し上げ、多くの国にロシアとの関係に顧慮せざるを得ないテコになっていることは確かだ。

折しもオミクロン株の感染が拡大することで、世界全体の食糧需要は来年さらに逼迫することも想定される。この状況が続く限り、ロシアの動向は国際市場を通じて、直接取引の少ない国にも及ぶとみられる。だとすると、来年のクリスマスケーキは、今年よりさらに小さくなっても不思議でないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け不安定な展開

ワールド

英、パレスチナ国家承認へ トランプ氏の訪英後の今週

ビジネス

NY外為市場=ドル下落後切り返す、FOMC受け荒い

ビジネス

FRB0.25%利下げ、6会合ぶり 雇用にらみ年内
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story