コラム

「水泳をしない生徒は国家を分断させる」──フランスで進むイスラーム規制

2021年02月18日(木)14時45分

近年ではとりわけトルコやサウジアラビアなどが海外でのモスク建設などを国策として行なっているが、こうした「外国政府の息のかかったモスク」は、フランスに限らず各国で急進的な教義を普及する前線基地となっている。言い換えると、その国の法律よりイスラームの教義を優先する人々の拠点になっているのであり、学校教育の一環である水泳の授業を拒絶する生徒はこうした親の言いつけに従っているからとみられるのである。

フランス政府の目から見れば、それは「国家のなかにある別の国家」を意味する。

「フランスらしさ」が損なわれる

そのため、フランス政府がこれほど神経を尖らせている背景には、単純にテロの脅威だけでなく、「フランスらしさ」が損なわれることへの警戒感があるといえる。

フランスでは革命以来、「世俗主義」が国是となってきた。

つまり、法律や社会的ルールから特定の宗教・宗派の影響が厳格に排除されているのであり、その意味ではフランスは「キリスト教徒の国」でさえない。そこには、革命以前にカトリック教会が大きな社会的影響力を握っていたことへの警戒や、プロテスタントとの血みどろの宗派対立の教訓がある。

今回の新法は「分離主義に対抗する」ことを目的としている。ここでいう分離主義とは、フランスに居住しながらフランスの政府や法律ではなく外部の考え方に従おうとする立場を指す。

新法では分離主義者が誰かは具体的に特定されていないが、それが暗黙のうちにフランス革命以来の世俗主義より、イスラームの厳格な教義を尊重するムスリムを想定していることは、イスラーム規制に賛成するかどうかにかかわらず、ほとんどのフランス人の見方として一致している。

マクロンの選挙戦略

フランスの基本的な原則を揺るがせにできないことは理解できるものの、狙い撃ちにされたイスラーム社会から強い反発が生まれたこともまた不思議ではない。

しかし、それでもマクロン大統領にはイスラーム社会を標的にしたこの法律を成立させなければならない事情がある。それは来年に迫った大統領選挙だ。

2017年のフランス大統領選挙でマクロンとその座を争ったのは、極右政党「国民連合」のルペン候補だった。「右派でも左派でもない」を標榜したマクロンは、ルペンや極右に反対する票を取り込んだことで当選を果たした。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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