コラム

「一世帯に30万円給付」は高いか安いか──海外のコロナ補償との比較

2020年04月06日(月)12時10分

参議院決算委員会での安倍首相(4月1日) Issei Kato-REUTERS


・政府・自民党はコロナで経済的に苦しくなった世帯に30万円を給付する方針を固めた

・海外との比較でみると、この金額は直接給付としては決して安くないが、給付対象はかなり絞られている

・そのうえ、「一世帯30万円」以外の救済措置でみると、日本は諸外国より大きく出遅れている

政府が打ち出した「一世帯に30万円給付」は、海外と比べて決して安くない。ただし、それは「家計への直接的な支援に限れば」であって、コロナで生活が悪化した人へのトータルの支援で日本は大きく出遅れている。

直接給付をしている国は多くない

アベノマスクの余韻が冷めやらなかった4月3日、安倍総理は自民党の岸田政調会長と「コロナで悪影響を受けた一世帯あたり30万円を給付すること」に基本的に合意した。

この金額は世界的にみて高いのか、安いのか? これに関して、主な国と比較してみよう。

以下はコロナ蔓延が特に目立つアメリカ、イタリア、スペイン、ドイツ、フランス、そしてコロナ封じ込めに成果をあげたと評価されるシンガポール、それぞれの政府が打ち出してきた主な経済対策だ(教育や医療などを除く)。

Mutsuji200406_1.jpg

ここから、直接給付はアメリカ以外であまり行われていないことが分かる。つまり、コロナで悪影響を受けた人々への直接給付は人目をひくが、それを柱にしている国はそもそも多くない(なぜなのかは後で触れる)。

では、そのアメリカと比べて「一世帯に30万円」はどうなのか。

アメリカでは「大人一人につき13万円、子ども一人で5万5000円」と想定されている。仮に大人二人と子ども一人の家族を想定すれば、アメリカでは31万5000円になる。この場合、日本の「一世帯に30万円」と大差ない。

もっとも、両親に子どもが二人以上いる場合、アメリカの方が手厚いことになる。

「30万円」の対象は多くない

一方、単身世帯で比べれば、日本の方が2倍以上高くみえる。とはいえ、単身者が喜ぶのは早い。

日本では単身世帯が「生活費が少なくても済む」とみなされて審査が厳しくなる見込みだ。

もっとも、単身世帯の方が生活コストの総額は安いだろうが、住居費や光熱費などが割高になるため、公平性を保つ計算は面倒になるとみてよい。どのように調整するかは結局、窓口となる市町村に投げられる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

英軍機にロシア船がレーザー照射、国防相「軍事的選択

ビジネス

エヌビディア、強気見通しでAIバブル懸念は当面後退

ビジネス

メタ、豪で12月10日から16歳未満のSNSアクセ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story