コラム

天安門事件30周年や香港デモに無言の日本――「中国への忖度」か?

2019年06月20日(木)13時35分

これに対して、「天安門事件の時、援助の停止といった経済制裁に日本も加わった」という反論もあり得る。とはいえ、確かに日本政府は天安門事件の後、中国向け政府開発援助(ODA)を停止したが、これはむしろ例外とさえいえる。そのうえ、日本による援助の停止は欧米諸国のほとんどが制裁に踏み切った後で導入され、しかもその解除は最も早かった。

中国に限らない静けさ

念のためにいえば、日本政府のこの態度は、相手が中国の時ばかりでなく、基本的にどの国に対しても同じだ

例えば、ロヒンギャ問題が深刻なミャンマーに対して、欧米諸国は政府や軍の責任を明確に批判しているが、日本政府はロヒンギャ難民の帰還などで支援しながらも、基本的に何も言わない。

もっといえば、1988年にクーデターで軍事政権が成立した後のミャンマーに、欧米諸国が援助を基本的に停止したのに対して、日本は援助を続けた。

こうした場合、「関係を維持しながら状況の改善を働きかける」というのが日本政府の建前だが、ミャンマーに関していえば、民政移管を定めた2008年の新憲法採択などは軍事政権の側の事情の変化によるもので、日本政府の働きかけによるとはいえない。

日本の援助と相手国の政治状況を統計的に調査したマラヤ大学のフルオカ准教授は、日本が援助を民主化のテコとして用いたという証拠はないと結論している。

アジアと西側の狭間

日本政府のこの立場は、内政不干渉を強調する立場に基づく。

「それぞれの国家には国家としての権利、主権があり、外国の問題に口を出すのは主権の侵害、内政干渉に当たる」というのは国際関係の古典的な考え方で、アジア諸国にはこの考え方が強いが、日本もその例に漏れない。

この立場は、国内の人権問題はそれぞれの国で処理すべきで、外国からとやかく言われる筋合いはない、という主張につながる。

ただし、日本の立場は欧米諸国と異なる一方、他のアジア諸国とも異なる。他のアジア諸国は欧米諸国、とりわけアメリカの「内政干渉」に批判的で、天安門事件の鎮圧にもほとんどのアジア各国の政府は(控えめではあっても)理解を示した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO

ビジネス

米総合PMI、4月は50.9に低下=S&Pグローバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story